これは「お涙頂戴」の作り話ではない。中国で本当に起きた出来事である。
中国・重慶市の古びた集合住宅で、一人暮らしの70代男性が静かに息を引き取った。人付き合いが苦手で、近所ともほとんど交流せず、日々はごみ拾いで生計を立てていた彼にとって、唯一の家族は拾ってきた二匹の犬だった。
老人の死に誰も気づかぬまま一週間以上が過ぎ、犬たちはただ黙って寄り添い、動かぬ飼い主を見守り続けた。食べ物も水も口にせず、やがて一匹は餓死し、残された一匹だけが痩せ細った体で、なお主人を見守り続けていた。

ようやく異変に気づいた近隣住民が救援を呼び、ボランティアが現場に駆けつけたとき、部屋には時間の経過を物語るにおいが充満していた。
遺体が運び出された後も、犬は扉をかじって必死に家へ戻ろうとしたが、やがて床の隅で身を縮め、誰にも触れさせようとしなかった。
(救助の様子)
そこで、犬を連れて行こうとした動物救援団体の陳さんがソーセージを差し出した。しかし、極限まで空腹のはずなのに犬は見向きもせず、ただ飼い主の帰りを待つかのように目を伏せていた。
犬の気持ちを汲み取り、陳さんは優しく語りかけた。
「あんたのパパは天国へ行ったよ。病気だったんだ。なにもあんたを捨てたわけじゃない」「これからはじいさん(陳さん)の家へおいで、これからはじいさんがあなたを守るよ」

その声に犬は反応するように目を見開き、目の前の見知らぬ人間をじっと見つめた。やがて目に涙を浮かべ、その瞬間、硬く閉ざしていた心がほどけたのか、初めてソーセージを口にした。そして、なでられるのを許し、首輪をつけられても抵抗しなかった。

やがて犬は陳さんに伴われ、かつての家をあとにした。しかし、その足取りは重く、階段を下りる途中で立ち止まった。角を曲がる瞬間、両目から大粒の涙が流れた。その涙は、二度と戻ることのない家と飼い主への別れを告げているかのようだった。


病院で診察を受けた犬は、長期の飢えによって深刻な貧血と肝障害を起こしていた。現在、治療を受けながら回復に向かっており、救出の経緯が公開されると多くの人の胸を打った。SNSには「忠誠は本能を超えている」「犬の涙を見て自分も泣いた」との声が相次ぎ、支援の寄付や物資も届けられている。

孤独に生き、孤独に亡くなった老人と、最後までその傍らを離れなかった犬。二つの命が交わした深い絆は、人々の心を揺さぶり続けている。
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