地図で見る 拡大する中共軍の軍事活動 台湾海峡から中東・インド洋へ 

2025/09/16 更新: 2025/09/16

中国共産党はインド太平洋全域で軍事的影響力を拡大し、長年にわたり世界の海上交通を支配してきた米主導の安全保障体制に挑戦している。

中共は海外に基地を建設し、軍港へのアクセスを確保するとともに、複数の地域で海軍内部の連携を強化している。また、中国本土から数千マイル離れた海域でも軍事演習を展開しており、その野心の高まりは国際社会の政策決定者にとって、中共の軍事的圧力を抑止するうえで重大な課題となっている。

本稿では、中共がいかにインド太平洋で軍事的影響力を拡大しているかを詳しく解説する。

事実上の停戦ラインを越え台湾を挑発

中共政権による海上における軍事的存在感の拡張は、まず自国に近接する台湾海峡において顕著である。

中共は台湾のいかなる地域も実効支配したことはないにもかかわらず、長年にわたり台湾を中国本土の不可分の一部として位置づける立場を堅持してきた。近年においては、独立した島嶼である台湾およびその周辺海域に対して威圧的態度を一層強化し、場合によっては侵攻の意図をほのめかす行動や軍事演習を増大させている。

この侵略的傾向を示す重要な指標の一つが、中台間の事実上の停戦ラインとして機能してきた台湾海峡の「中間線」を越える行動の頻発である。

中間線は、1950年代に米軍によって設定された、拘束力を持たない境界線であり、北京当局はその存在を公式に認めていない。しかしながら、中共軍による中間線越えの出撃は、国際秩序に対する挑戦の意図を歴史的に示すものと評価される。

米ワシントンD.C.を拠点とする超党派の防衛政策シンクタンク・ジェームズタウン財団の調査によれば、2021~24年にかけて中共軍が中間線を越えた回数は953回から3070回へと急増し、昨年においては313日間にわたりこうした行為が行われ、全航空任務の約6割を占めたという。

リスクコンサルティング会社「ノース・スター・サポート・グループ」の地政学アナリスト、サム・ケスラー氏は、この動きが台湾防空システムの対応時間を短縮させると同時に、長年にわたり暗黙の境界として機能してきた枠組みを侵害するものであると指摘する。さらに、各軍種間の合同戦闘即応パトロールの規模と頻度が増大していることは、中共が軍事戦略及び態勢の強化に注力していることを如実に示すという。

こうした一連の活動は、単なる平時における断続的な示威行動にとどまらず、より持続的かつ実戦的な訓練を重視する中共の軍事ドクトリンにおける、広範かつ戦略的な転換を象徴するものと評価される。

第1列島線と第2列島線の突破で米国に挑戦

国際秩序に対して軍事的に挑戦しようとする中共の思惑と技術的能力を示すもう一つの重要な指標が、第1列島線および第2列島線を越えて大規模作戦を遂行する能力である。

これらの「列島線」は、長らく米国の戦略において、中国による太平洋への勢力投射を抑止するための地理的な基準線と位置づけられ、潜在的な紛争への備えとして重要視されてきた。

第1列島線は、日本列島から琉球諸島、台湾、フィリピン北部、ボルネオ島などを経て東南アジアに連なる島々を指し、中国沿岸に沿った自然の障壁を形成する。

第2列島線はそれより東方に位置し、小笠原諸島(ボニン諸島・火山列島を含む)からマリアナ諸島・グアム、さらにパラオやミクロネシアの島々へと広がる。ここでは米国と同盟国の拡張防衛線が構築されており、とりわけグアムは米国領西端の戦略拠点として位置づけられている。

中共が海外で米国の影響力に本格的に挑戦し、自国の軍事的影響力を拡大するためには、両列島線を突破する能力が不可欠である。

6月初め、中共は自国製空母「遼寧」と「山東」の両空母群を第1列島線の先にある太平洋西部に展開した。中共軍がこの規模の演習を実施するのは初めてであり、両空母群は航空作戦、海上監視、対潜戦、模擬攻撃を行い、「遼寧」はフィリピン東方を航行した。

ジェームズタウン財団およびノース・スター・サポート・グループの地政学アナリスト、サム・ケスラー氏は、これらの空母作戦を「第1列島線以遠における中共の持続的なプレゼンスを常態化させる兆し」と分析する。ケスラー氏によれば、「中共はここ数年、北洋艦隊の展開を増加させ、複数の作戦地域や戦域で活動できることを示すことで、勢力と影響力の投射を目指している」という。

オーストラリア一周航海で遠洋作戦能力を誇示

中共は、米国の主要同盟国周辺でも軍事的影響力の拡大を図っている。2~3月にかけて、中共海軍の艦隊がオーストラリア沿岸を一周する航海を実施した。

「任務部隊107」と呼ばれる中共海軍の編隊は、最新鋭の巡洋艦(055型)、フリゲート艦(054A型)、給油艦(903型)で構成されていた。作戦は2月11日に開始され、艦艇は単独および編隊で珊瑚海を航行する間、オーストラリア海軍のフリゲート艦が監視を続けた。2月21~22日には国際水域で実弾射撃訓練を実施し、ニュージーランドがその様子を監視した。

2月24日以降、艦艇はタスマニア島南方を通過し、オーストラリアの排他的経済水域に一時進入後、再び離れてグレートオーストラリア湾へ進出した。3月初旬にはルーウィン岬を回航し、オーストラリアのフリゲート艦に追跡されながら西海岸沿いに北上。3月7日には、中共の機動部隊がクリスマス島南方約420海里で確認され、スンダ海峡に向かうとみられている。

この航海は、中共軍が自国近海から遠隔海域において作戦能力を展開できることを示すデモンストレーションとなった。同任務は、中共海軍の空母の合同演習と同様に、広域運用能力の拡大を示すとともに、長年米国のプレゼンスが高かった海域における中共のプレゼンスを常態化させる訓練としての意味を有している。

港湾プロジェクト通じた中共の中東進出

中共は中東地域における軍事的プレゼンスの拡大にも取り組んでおり、海外で唯一確認されている軍事基地はジブチに所在する。また、パキスタンやアラブ首長国連邦(UAE)とも非公式の関係を維持している。

中共は2017年8月、ジブチに基地を開設した。厳重に警備された施設には、航空母艦や原子力潜水艦の停泊が可能な340メートルの桟橋、地下施設、病院、ヘリコプター駐機場、滑走路が整備され、常時1千〜2千人が駐留している。この基地は表向き、海賊対策や人道支援活動を支援する目的を掲げているが、中共政権の海外情報網の重要拠点としての機能も有しており、戦略的要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡やスエズ運河に近接している。

パキスタンにおいては、中共国営の中国海外港湾公司が運営するグワダル港に中共軍が拠点を設ける可能性について憶測が続く。ワシントン拠点の非営利調査報道機関「ドロップ・サイト・ニュース」によれば、パキスタン政府の内部文書は、パキスタンの首都・イスラマバード市が2023年に中共政権に対し、同港での中共軍の資産安全確保を保証したと示している。しかし、両政府はこの報道を否定しており、エポック・タイムズも独自に確認できなかった。

同様に、公開情報に基づけばアラブ首長国連邦内の中共軍の軍事施設も確認されていない。しかしながら、米国の情報評価によれば、中共は中東地域の複数国において将来的な物流拠点や軍事インフラ整備を検討している可能性がある。

2023年には、中共とアラブ首長国連邦が共同軍事演習を開始し、中共軍はカリファ港内の大型船舶施設に対して35年間の設計権独占契約を締結した。この事業には、中国港湾建設会社が関与しており、同社は南シナ海で中共の軍事化人工島建設に関与したとして米国から制裁を受けている。

ノース・スター・サポート・グループの地政学アナリスト、サム・ケスラー氏は、こうした港湾プロジェクトが米国にとって深刻な懸念事項であると指摘する。「これらの港湾は商業・軍事の双方に利用される可能性があり、米国の物流や迅速かつ効率的な部隊展開能力を阻害する恐れがある」と述べ、さらに「動力付きの軍事力と非動力的な戦力との間で衝突が発生した場合、外交上のジレンマも生じうる」と付け加えた。

広がる中共軍の港湾進出

中共は東南アジアおよびインド洋地域においても軍事的プレゼンスを増大させており、カンボジアやスリランカ、タイ、シンガポールにおける港湾インフラ整備や海軍プレゼンスの拡大が顕著である。

カンボジアでは、リーム海軍基地における中共による建設・改修工事が注目される。基地は理論上カンボジアの管理下にあるものの、衛星画像や新設された中国桟橋、ウォーターフロント施設は、基地北端の深水施設を含め、中共海軍の活動範囲が拡大していることを示している。

また、中共軍は、スリランカやタイの政府と緊密に協力しており、スリランカの港に調査船を停泊させる一方、タイとの外洋における合同軍事演習も実施している。さらに、香港に拠点を置く中国招商局港口は、スリランカのハンバントタ港を99年間運営する契約を締結しており、これにより中共は公然と軍事施設を建設することなく、地域港湾インフラへの広範なアクセスを確保している。

全体として、中共の関与は国ごとに異なる形態をとる。カンボジアでは具体的なインフラ整備、スリランカでは軍民両用活動の可能性、タイでは協力演習といった形で現れている。いずれも、中共が軍事的プレゼンスを拡大する取り組みを加速させていることを示すと、ノース・スター・サポート・グループの地政学アナリスト、サム・ケスラー氏は指摘する。

ケスラー氏はさらに、「中共は長期的な戦略を有しており、それは過去数十年にわたり国内外で獲得・整備してきた港湾や造船能力の水準からも明白である」と述べ、「北京は海外および外洋における軍事展開を維持・強化するための物流インフラを体系的に構築している」と指摘した。

エポックタイムズ特派員。専門は安全保障と軍事。ノリッジ大学で軍事史の修士号を取得。
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