台湾総統府が、高市早苗首相の「台湾有事」を巡る発言に対する中国の一連の反応を「日本への脅しは地域の安定を脅かす」と強く批判したことで、インド太平洋地域の緊張が高まっている。台湾総統府報道官の郭雅慧氏は、中国側の動きを「政治目的に基づいた複合的な威嚇」であり、「インド太平洋地域の安全保障や安定に重大な脅威をもたらしている」と述べた。
こうした緊張の高まりの背景には、中国共産党が展開する強権的な外交姿勢や、国際ルールに反した経済的威圧がある。中国の行動は、これまで経済的結びつきが深かったヨーロッパ諸国、とりわけドイツを中心とするEUの対中戦略に根本的な変化をもたらし、「デリスキング」(リスク低減)の動きを加速させている。
ドイツ 最大の貿易国だった中国と摩擦
中国は2024年まで長年にわたりドイツの最大の貿易相手国であったが、現在、中国とEUの関係は緊張を増しており、特にドイツとの摩擦が顕著だ。
ロイター通信によると、中国によるレアアース(希土類)輸出規制でドイツの産業が急激に混乱したこと受け、13日ドイツ議会は、対中国貿易政策の見直しに関する政策提言をする独立的な専門家諮問委員会の設置を承認している。
ドイツのワーデフール外相は中国は半導体やレアアース(希土類)の欧州向け輸出を絞り、ロシアのウクライナ侵略を間接支援している事を批判し、それに対して中国が発言の撤回を要求。侮辱と受け止めたドイツ政府は対抗措置として26日に出発する予定だった外相の訪中を延期した。
このような中、台湾も欧州への働きかけを強めている。台湾の蕭美琴(しょうびきん)副総統は11月7日にブリュッセルを訪れ、欧州議会で「台湾海峡の平和は世界の安定にとって重要だ」と訴えた。これに先立ち、蔡英文前総統もベルリン自由会議で講演し、台湾・ドイツ・欧州の民主主義諸国との協力深化を目的に訪独している。
EUは中共政府の「不公正な商慣習」へ積極的対抗
EUは、中国の強権的な経済行動や不透明な市場慣行に対抗する姿勢を鮮明にしている。
日本貿易振興機構によると欧州委員会は2024年の通商防衛措置に関する年次報告書で、域内利益の保護を最優先する姿勢を強調した。2024年にEUが通商防衛措置の導入を視野に開始した調査は33件であり、2006年以降で最も多い件数となった。前年の12件から大幅な増加である。
新規調査の対象国で最も多かったのは中国の20件で、インド(3件)、台湾、韓国(各2件)を大きく上回った。分野別では化学品が最多の12件で、いずれも中国製品が対象となっている。
欧州委は、過剰生産を含む不公正な商慣行に対抗し、EUおよびWTOルールの徹底を通じて域内産業を守る姿勢を強めている。2024年に実施した199件の通商防衛措置により、約62万5千件のEU域内雇用が維持されたとし、その効果を強調している。中でも、中国製バッテリー式電気自動車(BEV)への補助金相殺関税(CVD)措置は、約11万5千件の雇用保護に寄与したと説明した。
一方、中国側はEUによるBEV向け補助金相殺関税に反発し、EU産ブランデーへの反ダンピング(AD)措置や、EU産豚肉・乳製品の調査を進めている。欧州委はこれらを不当かつ「手段の悪用」と批判し、WTO紛争解決手続きを含めて域内企業の利益を保護する方針を示している。
こうした中国の政治的威嚇や不公正な経済行為が続く中で、ドイツを筆頭とするEUは、貿易防衛措置の強化やサプライチェーンの見直しを通じ、中国依存リスクを意図的に低減する方向へと舵を切っている状況だ。
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