全国求人情報協会が公表した2025年12月の求人動向によると、事務職の求人件数は前年同月比47.8%減少した。人手不足が広く指摘される日本の労働市場において、ホワイトカラーの代表格である事務職の募集がほぼ半減した形となる。一方、農林漁業や建設・採掘といった現場系職種の求人は増加しており、職種間で明確な対照がみられる。
統計では、データ入力や書類作成、定型的な調整業務など情報処理を中心とする職種の需要が縮小する一方、物理的作業を伴う分野では依然として人手が求められている。
人手不足とされる状況下で特定分野の求人が急減している事実は、景気循環だけでは説明しきれない構造変化の兆候といえる。
米再就職支援会社チャレンジャー・グレイ&クリスマスが2025年10月に発表したデータによると、同月のレイオフ発表者数は約15万3千人に上り、解雇理由の第2位に「AI」が浮上した。約3万1千人がAI関連合理化の対象になったとされる。
アマゾンやUPS、ナイキなどの大企業は業務効率化や組織再編の一環として人員削減を進めており、特に事務・管理部門やエントリーレベル職種への影響が指摘されている。AIが補助的ツールを超え、業務の代替主体として導入され始めたことが背景にある。
チームみらいの党首、安野たかひろ衆院議員は、自律的に作業を遂行する「AIエージェント」の登場が雇用構造を変えつつあると指摘する。安野氏は「今までは100人必要だった仕事が、30人くらいでできるようになる」と述べ、生産性向上と雇用調整が同時に進む可能性に言及している。
実際、ソフトウェア開発分野では生産性向上が報告され、採用凍結や人員削減の動きもみられる。全国求人情報協会の統計は、情報処理型業務の縮小傾向と符合する。
三菱総合研究所は、AI普及によって経済成長が進んでも雇用が拡大しない「雇用なき成長」が起こり得ると指摘している。若年層の就業機会縮小や所得格差拡大への懸念も示される。
安野氏は、生産性向上の果実を分配する制度として給付付き税額控除や将来的なベーシックインカムの検討に言及し、職業訓練の成果報酬型転換を提案している。 一方、海外に目を向けると、欧州ではAI導入の透明性や移行支援を含む『AI社会協約』を巡る議論も進んでおり、国内外で制度設計への関心が高まっている。
こうした中、社会保険労務士の藤井貴子氏は、自身の動画チャンネルで、企業は「AI時代の生存戦略」として社内リスキリングを急ぐべきだと提起している。藤井氏は、事務職求人がほぼ半減している現実を「すでに現場で人が余る現象として数字に出ている」と分析する。
藤井氏は、AI導入前に社内業務の棚卸しと仕分けを行うことを提唱する。
その上で藤井氏は、余剰化する事務人材を解雇するのではなく、「処理する係」から「整える係」へ役割を転換させる再教育を提案する。現場改善やマニュアル整備を担う「スーパーブルーカラー」的役割へのシフトである。
加えてリスキリングの財源については、厚生労働省の「人材開発支援助成金(リスキリング支援コース)」などの助成金の活用を提言。今後の採用では単なる事務経験よりもAI活用力を重視すべきだとする。
事務職求人前年比47.8%減という数字は、情報処理型業務の需要構造が変わり始めた可能性を示す指標である。AIは人手不足を補う手段であると同時に、特定職種の需要を縮小させる要因にもなり得る。
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