アメリカの電力網再構築を阻む入手困難な「ある部品」

2026/05/09 更新: 2026/05/09

電力需要の急増に伴い、米国は老朽化した送電網を再構築するという1兆ドル規模の競争に直面している。しかし、電力会社や政策立案者が近代化に向けた資金を投じている一方で、決定的なボトルネックが浮上している。それは、アップグレードのプロセスを停滞させている数年に及ぶ「変圧器」の不足だ。

米国の電力網インフラは、場所によって40年から100年前の代物である。なかには1800年代後半にまで遡る箇所もある。最近の推計によると、米国の電気インフラを近代化・拡張するには、2030年までに1.4兆ドル、2035年までには3兆ドル以上の資金が必要になるとされている。

一方で、実際に新設されている送電設備は、必要量のわずか一部にとどまっている。その結果、たとえ近代化に向けた予算が十分に確保されていても、資材供給の遅れが足かせとなり、計画通りに進まないケースが増えている。特に、送電網の容量拡大や新たな発電所の接続に欠かせない「変圧器」の不足は深刻だ。

2026年4月20日、トランプ米大統領は、送電網インフラとそのサプライチェーンを国防に不可欠なものとして指定した。

トランプ氏は、「老朽化し制約を受けた」送電網は「国防に対する増大する脅威」であり、変圧器などのインフラ関連部品を「設計、生産、配備」する国家能力が「危険なほど限定されている」と述べた。

今回の決定は、電力不足への懸念を背景に、インフラの強靭化とサプライチェーンの確保を急ぐエネルギー省の戦略と合致する。同省は3月に発表した19億ドルの投資枠を含め、送電網のアップグレードを資金面で強力に後押ししている。

BloombergNEFの分析によると、米国は2025年にすでに世界最高額となる1,150億ドルを送電網投資に費やした。

しかし、AIやデータセンター、人口増加地域からの急増する電力需要を満たすために必要な高圧送電容量のうち、建設されているのはごくわずかである。「クリーン・エネルギー・グリッドのための米国人(Americans for a Clean Energy Grid)」の2025年の報告書によれば、米国は「送電網の信頼性を維持し、混雑を緩和し、継続的な経済成長を可能にする」ために、年間約5千マイル(約8千km)の新しい高容量送電線を建設する必要がある。

製造のボトルネック

ICFインターナショナル(コンサルティングおよびテクノロジー・サービス企業)による2025年7月の米国電力需要分析では、2023年比で2030年までに25%、2050年までに78%の需要増が予測されている。

同コンサルティンググループは、米国の需要急増は電力の信頼性と手頃な価格設定に「重大な影響」を及ぼすと述べた。ICFの研究者によれば、市場にもよるが、電力消費者は2030年までに15%から40%の価格上昇に直面する可能性がある。一部の地域では、2050年までに電気料金が倍増する恐れもある。

2025年10月9日、テキサス州マッカレンにあるマジックバレー発電所。電力需要の増加に伴い、電力会社や政策立案者は老朽化した送電網の近代化に投資を迫られているが、深刻なボトルネックが浮上している。それは、長年にわたる変圧器不足であり、これが設備更新を遅らせている(Samira Bouaou/The Epoch Times)

他の研究者も、2035年までに最大18%の電気料金の値上がりを予測している。

そうした中、電力の安定した送電と配電を支える重要部品である変圧器の調達難は、数年前から問題となっている。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間、変圧器の製造は深刻なサプライチェーンの混乱に見舞われた。国家インフラ諮問委員会(NIAC)は2024年6月時点で、変圧器の待ち時間は2年から4年であると報告した。パンデミック前のリードタイムはこれよりも遥かに短かった。

2025年7月13日、カリフォルニア州カルバーシティで、エジソン電力会社の技術者が変圧器交換後、電柱への送電復旧作業を行っている。最近の試算によると、米国は電力インフラの近代化と拡張に2030年までに1兆4000億ドル、2035年までに3兆ドル以上が必要になるとされている(Chris Delmas/AFP via Getty )

NIACの報告書は、米国内のある大型電力用変圧器の製造施設において、新規注文の待ち時間が5年に達していると指摘した。

そこへAIインフラの構築と、それに伴う電力需要が押し寄せた。同年、ゴールドマン・サックスは、AIによって2030年までに電力需要が160%増加すると推定した。

一部のエネルギー専門家は、生産規模の拡大は一朝一夕にはいかないため、変圧器の待ち時間は当面変わらないと考えている。

「送電用変圧器の新しい工場を稼働させるには、設備への多額の投資とリードタイムが必要なだけでなく、送電レベルでの許容可能な信頼性基準に達するまでに、スタッフのトレーニングやスキルの習得に何年もかかることが多い」と、電力中央研究所(EPRI)の送配電インフラ担当副所長アンドリュー・フィリップス氏はエポックタイムズに語った。

レッド・ドッグ・エンジニアリングの主任エンジニア、ジェリー・プーン氏も同様の状況を実感している。

「私は商業用および集合住宅プロジェクトの電気システム設計とアップグレードに従事しているが、現在、電力を開通させる上での最大の制約の一つが変圧器の可用性だ」とプーン氏は語る。

「以前は数分の一の期間で入手できた配電用変圧器に、12ヶ月から18ヶ月のリードタイムがかかるのは珍しいことではない」

「その部品一つを除けば準備が整っているプロジェクトもある。そうなると、通電、検査、入居など、下流のすべてが停滞してしまうのだ」

脆弱なシステム

信頼性の観点から、プーン氏は、懸念すべきは送電網が完全に崩壊することよりも、むしろ「バッファ(余裕)」がいかに少なくなっているかにあると考えている。

「電力会社はより長期的な計画を立てざるを得ず、場合によっては、必要な時に機器が手に入らないため、緊急性の低いアップグレードや交換を延期している。しばらくは対処可能だが、複数の問題が同時に発生すれば深刻な事態になる」と同氏は述べた。

「実際の影響として、誰もが計画により長いリードタイムを組み込んでいる。開発者、エンジニア、電力会社は皆、設計が完全に固まる前であっても、より早い段階で機器を確保しようとしている。理想的ではないが、それが現実だ」

2022年9月16日、カリフォルニア州ロングビーチにある、電力需要のピーク時に蓄電して電力供給を行うAESアラミトス蓄電池エネルギー貯蔵システムを収容する建物の外に、AESのロゴが掲げられている(T. Fallon/AFP via Getty Images)

変圧器が一つ故障しただけでも、数千世帯が停電する可能性がある。これは異常気象や火災などの際に起こり得る。ウィスコンシン大学マディソン校の研究者によれば、電力用変圧器の約70%が製造から25年以上経過しており「故障に対して脆弱」であることを考えれば、問題の規模は明白だ。

フィリップス氏は「変圧器群は老朽化しており」、平均使用年数は35年を超えていると指摘する。これが供給不足の課題に拍車をかけている。

もっとも、フィリップス氏は、新しいモニタリング技術や劣化への理解が深まったことで、多くの資産の寿命を延ばすことが可能になったとも付け加えた。

同氏は、既存の変圧器を使い続けるための「延命策」の重要性を強調した。最新のモニタリング技術で劣化を監視し、装置内の油をきれいに保つ脱水技術や新型の絶縁液を活用することで、設備の寿命を最大限に引き出す取り組みが成果を上げている。

「ほとんどの変圧器は用途に合わせて注文を受けてから作る個別仕様であるため、そのカスタム性が製造スピードを鈍らせている。一つの設計で複数の用途に使用できる『フレキシブル変圧器』は、有望な新技術だ」

2026年3月11日、インディアナ州レイクビレッジの小さな町を竜巻が通過した後、電線が道路に垂れ下がっている。異常気象や火災などの際には、変圧器の故障一つでも数千世帯への電力供給が途絶える可能性がある(Scott Olson/Getty Images)

連邦エネルギー規制委員会(FERC)の担当者はエポックタイムズに対し、電力システムが現在直面しているリスクをより深く理解するために、エネルギー省や他の連邦機関、業界団体と協力していると述べた。

また、FERCの担当者は、変圧器の入手可能性を高めるための業界主導の自主的なプログラムについても言及した。例として、エジソン電気協会(EEI)の「予備変圧器設備プログラム」がある。これは、参加する電力会社が予備の変圧器を出し合い、特定の宣言された緊急事態や変圧器の損失時に共有できるようにするものだ。

また、北米送電フォーラムによる「送電停止復旧のための地域設備共有プログラム」もあり、これはメーカーが適時に代替品を提供できない場合を含め、緊急時に送電事業者が手持ちの予備設備を互いに売買することを可能にしている。

2026年2月17日、ワシントンのエネルギー省。同省は3月12日、「緊急に必要な改修」に19億ドルを投資すると発表した(Madalina Kilroy/The Epoch Times)

エジソン電気協会の広報担当ダニ・マークス氏はエポックタイムズに対し、電力各社は送電網のレジリエンス(回復力)の強化と、サプライチェーンの課題への解決策を見出すことに注力していると語った。

「米国の電力会社は、これら主要部品の国内生産を拡大するために、政府やメーカーと緊密に連携している。配電用変圧器については供給の改善が見られるが、依然としてリードタイムの長い大型電力用変圧器については、製造拡大に向けた取り組みが続いている」とマークス氏は述べた。

3月12日、米エネルギー省は「緊急に必要とされるアップグレード」のために19億ドルの投資を行うと発表した。

南アメリカを拠点とする記者です。主にラテンアメリカに関する問題をカバーしています。
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