1990年代からスポーツ大国に躍進した中国には、かねてからドーピング疑惑が付きまとっている。ドイツに政治亡命した中国選手団元医療責任者の薛蔭嫻氏(79)がこのほど、中国のドーピング不正を示す証拠を国際オリンピック委員会に提出する意向を示した。
スポーツを統括する政府機関「国家体育総局」に30年以上勤務した薛氏の証言によると、1978年、中央指導部がナショナルチームの薬物使用を初めて指示した。それを受けて、医療チームが海外に発遣されて使用の知識を習得した。のちに代表選手の「特別栄養剤」と称される禁止薬物の服用は常態化になった。
1990年代に入ると、競泳女子選手が世界新記録を次々と刷新。陸上指導者・馬俊仁氏率いる陸上の女子中長距離走チーム「馬軍団」は世界記録を塗り替え、中国はスポーツ大国という国家の目標を成し遂げた。
しかし、94年の広島アジア大会で複数の選手の薬物使用が発覚し、スキャンダルになった。同大会で中国競泳女子が全15種目で金メダルを獲得したが、のちに金メダル獲得者11人がドーピング検査で陽性となり、メダルが剥奪された。
この出来事がきっかけで、かねてから囁かれていた国家ぐるみのドーピング疑惑がいっそう強まった。翌95年、中国政府は体育法にドーピング禁止規定を盛り込むなど国の関与を払しょくしようとした。一方、薬物使用はその後も続いたとみられる。
昨年、中国の有名作家・趙瑜氏は自著の「馬軍団調査」で、馬軍団の主力選手ら9人は趙氏宛ての連署状で長期にわたる薬物使用を告発した、としている。
薛氏は80年代から組織ぐるみのドーピングを告発してきた。そのため、当局から監視され、協力する長男が一時投獄され、証拠を取り上げようとする警察から度々、家宅捜査などの迫害を受けてきた。今年6月、駐中国ドイツ大使館の支援を受けて、同氏は長男夫婦とともにドイツに渡った。数十年間の勤務日記68冊とその他の証拠も出国前、別のルートを通じてドイツに無事に送った。これらの証拠は近々、国際オリンピック委員会(IOC)に提出されるという。
薛氏によると、中国政府はいまでも、各方面から、口封じのための圧力をかけてくるという。
(翻訳編集・叶清)
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