江蘇省徐州市豊県で8人の子を持つ女性が首を鎖でつながれた状態で見つかった事件をきっかけに、中国で長年横行する人身売買の問題は注目を集めた。米ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、人身売買の被害者の救助活動に取り組む人権団体の関係者を取材した。
人権団体「中国婦権(婦女権益)」のスタッフで、誘拐された女性や子どもの救出に携わっていた姚誠さんは2011年冬、中国最貧困地域の一つに数えられる、安徽省大別山の山奥にある村で、当時19歳の鄧露栄さんを発見した。「鎖の母」事件を受けて姚さんは2月中旬、Youtubeに鄧さんの存在を公開した。
失敗に終った救出計画
「彼女は目が見えない息子を抱いて薪小屋に隠れていた。声かけにはあまり反応せず、呆然としていた。質問に対する受け答えから、軽い知的障害があることがわかった」と姚さんは当時の状況をこう振り返った。
安徽省宿松県柳林郷出身の鄧さんは「一人っ子政策」に違反して生まれた子であることを理由に、両親は育児放棄した。13歳のときに地元の学校の教師にレイプされ、14歳のときに叔父に近くの村の40代の男に売られた。
男は彼女に売春を強要した。相手は村の男性たちだった。若者もいれば年寄りもいた。男は彼女の「稼ぎ」で小さなビルまで建てた。
村民の話では、鄧さんはしばしば山へ逃げては隠れていたが、息子が気がかりでまた戻ってきた。生後間もない息子は目に炎症が起こり、両目の視力を失った。
姚さんら複数のスタッフは村を訪れて、鄧さんを助け出そうとしたが、棒や鍬を持った大勢の村民によって取り囲まれ、身の危険を感じたという。
やむなく救出計画を断念し、地元の派出所に通報したが、警察は「自分たちで交渉して解決しなさい」と介入しようとしなかった。あれから11年経ったが、鄧さんの境遇は改善されることはなかったという。
黒い世界
ニューヨークに本部を置く人権NGO「中国婦権」の創設者、張菁さんはRFAの取材で、「鄧さんのような被害者はほかにも大勢いる。警察に通報し、救うためにあらゆる努力を試みたが、どうにもならない」と無念さを語った。
中国のエイズ権益活動家、万延海さんは90年代に政府保健当局の職員だった。性産業従事者に衛生知識を普及させる業務を担当していた。RFAの取材に対して、当時、性産業で働く女性のなかに、誘拐被害者もいたと証言した。ただ、発見しても警察に知らせない。「オーナーとの関係が悪化し、業務に支障が出るからだ」という。
誘拐された児童は300万人超え
政府の公式発表はないが、姚さんは長年の現場経験から「1980~2016年まで、ピーク時には年間20万人、年間平均で約10万人の未成年者が誘拐された。30数年の間で被害者は300万人を超える」と試算した。被害者の大多数は女児であるという。
誘拐された女性たちは、人身売買業者に商品のように取引される。中国の官製メディア「検察日報」の過去の記事によると、鎖の母事件の現場からそう遠くない徐州市姜集村で2000年当時、「人身売買の卸売市場」があった。
張菁さんによると、被害者は虐待や監禁などにより、精神障害を患うケースが多い。
雲南省から安徽省に売られた董茹さん(仮名)はRFAの取材で、同じ村の女性も安徽省に売り飛ばされたが、買い手に虐待されて死亡したと話した。
陝西省佳県でも、このほど鉄製の檻に女性が閉じ込められていることが発覚した。江蘇省徐州の「鎖の母」と同じように長年被害を受けているが、村人たちは女性らの境遇に無関心で、時には加害者側に加勢するという。
人身売買取り締まりに携わっていたという中国人警官は、匿名を条件にRFAの取材を受けた。人身売買事件の検挙率が警官の業績評価の対象ではないため、警官は事件の解決に及び腰だと説明した。
董茹さんはRFAに、「夫から激しい暴力を受けたとき、警察に通報したが無駄だった」と話した。
人身売買は産業化
「中国婦権」の張さんは、中国では80年代半ばから人身売買が産業化し、多くの政府当局者が関与していると証言した。
警官、医者、地元当局の幹部が被害者の出生証明、戸籍の偽造に協力してカネを受け取っている。「おカネを払えばすべて解決できる世界だ」と張さんは話す。
張さんらによれば、「中国婦権」の活動は政府当局の嫌がらせや抑圧を受けてきた。地方当局が被害者の救出を妨害することもあるという。
中国政府は2012年、海外から活動資金を受けていることを理由に、同人権団体を「反中勢力」と位置付けた。複数の主要スタッフは逮捕され懲役刑を言い渡され、現在ではインターネット上の活動に移行し、現場での救助はできなくなっている。
張さんはRFAの取材に対して、「中国婦権」は約5年間しか現場で活動できず、助け出した女性や子どもは28人にとどまっていると明かし、悔しさをにじませた。
(翻訳編集・叶子静)
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