繰り返される民間人への攻撃
ロシアはウクライナに侵攻して1年を過ぎても勝利を得られない。開戦初期はロシアが早期に勝利すると思われたが予想外の長期化になった。ロシア軍はウクライナ北部・東部・南部を占領していたが北部から敗走した。侵攻側のロシア軍はウクライナ軍に撃退されるとウクライナ東部と南部の攻勢に移行した。
ロシア軍はウクライナ東部からの攻勢を継続するがウクライナ軍の反転攻勢でハルキウ一帯を奪還された。ウクライナ南部でもウクライナ軍の反転攻勢で防御が難しくなる。それでもロシア軍はウクライナ東部からの攻勢を維持しているが戦線全体の変化は見られなかった。
ロシア軍はウクライナ全土に対して何度も巡航ミサイル・ドローンを用いた攻撃を実行している。しかもロシア軍による巡航ミサイル・ドローンによる攻撃は民間人を狙ったものが大半だった。ザポリッジャ原発は何度も外部電源を喪失する危機に陥り事故寸前まで追い詰められている。
民間人を攻撃する意味
第一次世界大戦は潜水艦・戦車・航空機が兵器として投入され戦争の転換点になった。そして第一次世界大戦は現代戦と同じ概念が確定する戦争であり未来の戦争で悲劇を拡大する理論を生み出している。
第一次世界大戦が終わるとイタリアのドゥーエが戦略爆撃理論を提唱した。ドゥーエは地上の戦線を航空機が飛び越えて敵後方に進出する光景を見て戦争で勝利する兵器だと確信する。戦略爆撃理論を簡単に言えば、“軍隊に武器を提供する民間人を殺せば戦争は早期に勝利できる”ものだった。
それまでの白人世界の戦争観は騎士道を土台としていた。戦争は軍隊同士が行なうものであり敵国民だとしても殺害しない暗黙の了解が有った。戦争で民間人を巻き込むことは避けられないが直接殺害することは回避されていた。ドゥーエの戦略爆撃理論は直接民間人殺害を意図したものだが、第一次世界大戦後は各国の軍隊で採用され戦略爆撃機を生み出した。
戦略爆撃理論を端的に言えば蛇口を閉めれば水が止まる安易な考えだった。だが第一次世界大戦で使われた航空機の威力は凄まじい印象を与えていた。技術の向上で航空機は大型になり戦線後方へ進出できる。しかも敵国を攻撃できるなら戦争に勝てると考えるのは当然だった。だが第二次世界大戦で戦略爆撃理論は間違いであることが証明される。
第二次世界大戦でイギリス・ドイツ・日本は戦略爆撃を受けたが戦い続けた。爆撃を受けた国民は戦意を喪失するどころか敵意を増大している。さらに工場を分散することで生産を維持することができた。しかも爆撃を実行しても戦争は早期に終わらなかった。
第二次世界大戦で戦略爆撃理論は間違いであることが証明されたが、第二次世界大戦後は核兵器に理論が継承されている。その典型は地上から発射するICBMと潜水艦から発射するSLBMの弾道ミサイルだった。さらに戦略爆撃理論は今でも亡霊として生き残っており、ロシア軍はウクライナ侵攻で民間人殺害を意図的に行っている。
民間人への攻撃は報復
ロシアは3月9日、ウクライナへの巡航ミサイル・ドローンによる攻撃は“ウクライナ戦闘員によるロシア領侵犯に対する報復措置”であることを発表した。しかも攻撃目標は民間人なので意図的に戦略爆撃理論を実行したことを意味している。
民間人を直接殺害しても戦争は早期に終わらないことが証明されているが、ロシアは軍隊では勝てないから民間人殺害で戦争に勝利する道を模索しているとしか思えない。つまり巡航ミサイル・ドローンによる攻撃は政治としての攻撃でありロシア軍を火力支援する軍事作戦ではない。
巡航ミサイル・ドローンを使いウクライナ軍司令部・兵站・基地などを攻撃するならロシア軍への火力支援となる。この場合はウクライナ軍の後方を攻撃するので戦線のウクライナ軍は指揮・物資を遮断されることになり、仮にロシア軍から攻撃を受けると損害が増大する。実際に湾岸戦争・イラク戦争などでアメリカ軍が実行して成功している。それでも巡航ミサイル・ドローンを政治用の兵器にしているからロシア軍は勝てない戦争へ誘導されている。
核兵器への依存
開戦前のロシア軍は世界第2位の軍隊と言われていた。だがウクライナに侵攻すると戦争の長期化どころか損害を増大させている。ソ連時代のアフガニスタン紛争 (1978-1989)は死傷者1万4千人を超えているが、今のロシア軍は一年を経過したら死傷者15万人を超える損害を出した。ロシア軍は旧式化したT-62戦車を近代化してウクライナに投入し、動員令を出して人的損害に対応していることからも損害の酷さを証明している。
ロシア軍はウクライナ東部で攻勢をしていると言われたがバフムト付近で前進した程度であり全体的に見れば戦線全体は停滞している。これはロシア軍がウクライナ軍に勝てないことを示唆しておりロシアの国際的な地位が低下する未来が約束されている。
ロシア軍は戦争に勝てない軍隊だと認識したら?各国はロシアを三流国と見なすのは自然な流れ。何故なら高圧的な外交発言をしても軍隊は怖くない。ならばロシアの外交発言を無視するのは当然なのだ。
同時にロシアが核兵器に依存するのも自然な流れ。現代は核兵器の恐ろしさを知っているから軍隊の代わりに核兵器で恫喝することは可能。この典型は北朝鮮であり、軍隊の代わりに核兵器で国際的な地位を獲得している。つまりロシアは北朝鮮並の地位に落ちること意味しているのだ。
外交×軍事=国家戦略=外交×核兵器
国際社会では軍事力を背景に外交を行なうのが基本。だが軍事力に劣る国は外交発言も低下する。そこで地位を向上させたい国は安易に核兵器に依存する傾向が有る。実際に北朝鮮は核兵器の保有でアメリカと外交が行えるので、独裁的な国が核兵器に依存する理由なのだ。
ロシア軍は損害が多くてNATOと戦争できない。そうなると戦後のロシアの地位のために核兵器をウクライナで使用すると私は推測する。東西冷戦期に核兵器は使われなかったのは事実。これはNATOに核兵器を撃ち込めばソ連が報復攻撃を受けることを知っていたからだ。だが今のウクライナはNATOに加盟していない空白地帯なのでロシアから侵攻を受けている。さらにウクライナは空白地帯だからNATOは直接戦争に加入しないし、仮にロシアがウクライナで核兵器を使ってもNATOは核兵器で報復攻撃をしない。
NATOが戦争に参加するのは同盟国が攻撃を受けた時に限定されている。さらに核兵器を使った報復攻撃も加盟国が核攻撃を受けた時に限定されている。ならば空白地帯のウクライナでロシア軍が核兵器を使っても非難するだけで核兵器による報復攻撃をしないと断言できる。何故ならロシアに対して核攻撃を行えばNATOが核兵器で報復される。ならば核戦争に巻き込まれることを回避する道を選ぶのは当然。
ロシア軍はウクライナ軍が南部でメリトポリを奪還すれば南部どころかクリミア半島の防衛は不可能。さらにウクライナ軍の進撃を止めることはできない。ならばロシア軍に残されたのは核兵器しか反撃の手段は残されていない。そのためロシア軍はウクライナの原発爆破と核兵器で放射能による汚染地帯を作るはずだ。
「核爆発を受けた戦場は大規模な破壊・火災と残留放射能による障害地帯になる。この戦場で戦闘を続けるには地形踏破機動力と放射能防護力が不可欠である。それに欠ければ戦術核は使えない」(トルーマン論文/英ブラッセイ年鑑)
冷戦中期になると核兵器は攻撃兵器ではなく防御兵器との認識に変わっていた。これは相手国に核兵器を撃ち込めば報復攻撃を招いて核戦争に拡大する。だが自国領で核兵器を使えば相手国は核兵器で報復攻撃できない。さらに放射能による汚染地帯が作られ敵軍の前進を妨害できると考えた。
当時の戦車はNBC装備だから汚染地帯でも前進できる。だが物資を運ぶ兵站部隊のトラックはNBC装備を持たないのが現状だった。だから汚染地帯に兵站部隊が通過すると兵士は24時間後に死亡する。そうなると敵軍は前進できないことになる。この様な構想が冷戦期には存在しており今のロシア軍が採用する可能性は高い。
世界と日本の覚悟
仮にロシア軍がウクライナで原発爆破と核兵器を使ったら、ウクライナ南部は広範囲に放射能で汚染される。こうなると汚染地帯は障害となりウクライナ軍の前進を止める。さらにNATOが参戦しても進撃しない。原発爆破でロシア領も放射能による汚染地帯になるが、これはロシアには好都合。何故ならロシア領も汚染地帯ならばウクライナ軍とNATOはロシア領に進撃できない。
この推測が正しければ戦後のロシアは核兵器を背景に国際社会の地位を維持する。同時に核兵器で世界を脅すのだ。実際にウクライナで使った決断が有るなら世界はロシアを危険視する。だからロシアは地位を得られるのだ。こうなると日本は世界と連携してロシアに抵抗する覚悟が求められる。日本はアメリカの核の傘にいる限りロシアは日本へ核攻撃しない。この事実が有るから日本はロシアに従ってはならない。
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