中国の改正版「反スパイ法」が7月1日から施行される。邦人の拘束と外資系企業への圧迫が相次ぐなか、事業者は「チャイナリスク」の再評価を迫られている。外資系企業の幹部は取材に対し、法改正は特定の3つの業種に大きな影響を及ぼす恐れがあると指摘した。
この記事のポイント
・日本政府も反スパイ法改正に懸念
・相次ぐ外国企業への圧迫
・特に影響受けやすい3業種とは
・レッドライン、より不明確に=専門家
改正法に政府が懸念
中国の全人代常務委員会は4月26日、スパイ行為の摘発を強化する「反スパイ法」の改正案を可決した。「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料及び物品」を盗み取ることが新たにスパイ活動として定義されるなど、取締りの範囲が拡大された。
加えて、スパイ組織やその代理人との接触がスパイ行為とされる恐れがあるほか、国家機関や重要情報インフラに対するサイバー攻撃も対象となった。
中国の反スパイ法施行後に少なくとも17人の邦人が拘束されており、当局による不透明で恣意的な運用も指摘されている。今回の法改正でスパイ活動の定義が拡大されたことに対し、日本政府は在留邦人に注意喚起を行なっている。
相次ぐ外国企業への圧迫
ロックダウンを解除し外国資本の呼び込みを行なっていた矢先、中国当局は外国企業への圧迫を強めている。
3月17日、中国の財務当局は大手会計事務所デロイト・トーマツの北京事務所に対し、2億1200万元(約42億円)という巨額の罰金を課し、3か月間の業務停止を命じた。同事務所は声明で、従業員には倫理規定に違反する行動はなかったと記した。
同じく3月下旬、日本の大手製薬会社アステラスのベテラン社員が出国直前に国安当局に拘束された。中国外務省の毛寧副報道官は同月27日の会見で、同社員が「スパイ活動に従事し、刑法と反スパイ法に違反した疑いがある」と述べた。
汚職や不祥事を調査する米国の信用調査会社ミンツ・グループは3月下旬、北京事務所を家宅捜索され、5人の従業員が連行された。当局からの法的通知はなく、同社は「不正なことは一切していないと確信している」と強調した。
影響受けやすい3業種
中国当局の取締りが強化されるなか、外国企業はどのような影響を受けるのか。香港のある外資系企業の幹部は身の安全のため、匿名を条件に中国語大紀元の取材に応じた。
幹部によれば、中国の反スパイ法の改正により、特定の3つの業種を展開する企業とその従業員は影響を受け易いという。
「1つ目は、中国での業務に調査が伴う企業や、デロイトのような会計審査業務に携わる企業だ。中国当局が周知されたくない『敏感情報』を取り扱うことが多い。2つ目は投資分析を行い、レポートを発表する企業だ。そして3つ目は、中国において医療やバイオテクノロジー、ソフトウェアに関する事業を展開し、もしくは経済協力を行なっている企業だ」。
「西側諸国にも国家の安全を保障する法律や対テロ法はある。しかし、中国の法制度は国際法とは相容れない社会主義に基づいている。当局の法執行には人権を侵害することも多い」と幹部は指摘した。
また、三権分立が確立されていない中国では、西側諸国のような公正な裁判を受ける権利が必ずしも保障されていないとして、中国市場へのマイナス要因は増大すると考えている。
レッドライン、より不明確に=専門家
中国問題に詳しい時事評論家の唐浩氏は、反スパイ法の改正により「中国当局が設ける『レッドライン』がより不明確になり、外国企業と外国人は今まで以上に大きなリスクを背負うことになった」と指摘する。
「例えば、パンデミック期間中に、外国人ジャーナリストが中国地方当局の内部会議の議事録を見た場合、または、財政当局が改ざんする前の生の統計データを見た場合でさえ、『スパイ行為』を行なったという烙印を押される可能性がある」。
「スパイ行為」の定義が拡大されたため、外国人の前で不用意に「敏感情報」を口にするリスクを恐れて、中国人が外国人との接触を控える可能性もあると指摘。そこに中国共産党のプロパガンダが加わることで、外国人への不信感が広がり、外国企業はより一層不利な環境に置かれるだろうと懸念を示した。
中国本土の弁護士は匿名を条件に大紀元の取材を受け、スパイ行為に対する中国当局の定義は非常に広範にわたると説明する。
「厳格に解釈すれば、スパイとは敵対組織または敵国による訓練を受けた者であり、またはその指示を受けて行動する者である。しかし実際のところ、中国当局が行うスパイ認定は非常にあいまいだ。経済に関する調査を行ない、もしくは軍事基地の写真を撮り、それをアップロードすれば、すぐにでもスパイ行為として認定されるだろう」。
同弁護士はまた、中国国内の政治的混乱と当局の締め付け強化により、外国企業が中国投資について再考することを迫られていると指摘した。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。