このほど、北京のある企業の管理職の女性が、従業員(男性)を解雇するにあたり「ああ、私はあんたを違法に解雇したよ。だからって、何だ?」などと、険しい顔で威張り散らす様子の動画が華人圏のSNSに拡散され、世論の怒りを引き起こしている。
さらに、この女性管理職は「あんたを、二度と就職できないようにしてやる」などと言い放ち、不当解雇した従業員の今後の再就職に関しても脅迫した。
「これは違法だ」と、自分で居直る女性管理職
動画のなかには、終始横柄な態度を露わにした、企業の人事関係の管理職と思われる中年女性の姿があった。
この女性は「私があんたを違法に解雇するだって? そうさ、これは違法だ。それが何だっていうんだ。あんたは、私をどうにかできるのか」「今すぐ出ていけ。私はたった今、あんたの権利は全て取り消した。私の会社に立ち入ることは許さない」などと言い放った。
動画撮影者であり、解雇を告げられた男性従業員が「(私は)労働局の結果を待っている」と言うと、女性は「訴えるなら、こっちはじっくり相手してやる。労働仲裁(労働局の外局)にも、裁判所にも、こっちのコネはいくらでもあるんだ」と言いたい放題である。
さらに女性は「やれるもんならやってみろ。あんたを2年半は、失業者のままにしてやるからな。再就職したいなんて、考えるんじゃないよ」と毒づくと、自分が不当解雇した従業員を会社から追い出すために、警察に通報の電話をした。
動画は、ここで終わっている。ネットユーザーからは「これは悪質すぎる」「まるで黒社会(ヤクザ)だ」などのコメントや、「彼女は(中国の)労働法が、ただのお飾りであることを知っている。だから、これほど傲慢でいられるんだ」といった非難が多く寄せられている。
異常が「通常」になっている、中国社会の不条理
いっぽう、中国の現状からして「不条理ではあるが、彼女の言う通りだ」という、嘆きを多分にふくむ現状肯定を示すコメントも多く寄せられた。
「残念ながら(現状は)彼女の言う通りだ。もし労働法に照らして、裁判でこの問題を解決しようとすれば、とんでもなく長い時間がかかる。それでは時間的にも、精神的にも、消耗させられるだけだ」
「あの女性管理者は、本当のことを言っただけだ。そもそも中国の法律なんて、真面目に生きる善良な人をいじめるためのもので、権力をもつ悪人に対しては(法律のほうが)恐れをなすのだから」
この一件が世間に注目された後、当局の検閲が入ったためか、中国SNS微博(ウェイボー)では、これに関連するトピックスが検索できなくなり、ホットリサーチからも消えたことがわかった。
(この女性管理職は「おまえを、二度と就職できないようにしてやる」などと言い放ち、解雇する従業員を脅迫した)
ただし、問題発言の動画が世論の注目を集めたことで、いくらかの変化も起きた。
動画のなかの「井」という女性の高級管理職が所属する企業「北京尼欧克斯科技有限公司(または蘋芯科技)」は8日、不適切な言論があったとして、井氏をを停職処分にしたとする声明を出した。
解雇された社員が、企業の問題を告発
解雇された社員(動画の撮影者)である孫氏は8日、SNSを通じて「(解雇された)会社は海賊版のEDA(集積回路や電子機器など電気系の設計作業の自動化を支援するためのソフトウェア、ハードウェアおよび手法の総称)を使ってチップの設計をしている。そのため、この会社のチップには安全性の問題が存在する可能性があり、品質は保証できない」など、同企業の問題を内部告発する録音を公開した。
また、解雇された原因について、孫氏は「(私が)上司の言いなりには、ならなかったからだろう」と述べている。
孫氏はさらに、「(あの女性のような)高級管理職を停職にするのは不可能だ。井玥(女性管理職の名)氏は清華大学卒業の高学歴であるうえ、会社の大ボスである杜克教授や(社長の)陳怡然氏とは清華大時代からのクラスメイトで、とても親しい関係にある。(停職にしても)ほとぼりが冷めれば、また復職させるだろう」という。
これに対し、同社の社長・陳怡然氏は9日、中国メディアの「新浪科技」に対し、「私は井玥氏とはクラスメイトではない。孫氏には、学歴や経歴詐称の疑いがあるうえ、過去にも数社の企業を脅してきた」と反論している。
しかし、孫氏が内部告発した「海賊版ソフトウェアによるチップ設計」などについて、陳氏からの言及や反論はなかった。
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