ロシア軍が中共からの侵攻を戦術核で阻止するシミュレーションを行っていた=ロシア軍文書

2024/03/07 更新: 2024/03/07

近年、中露は密接な協力を強化してきたが、漏洩したロシア軍の文書には、ロシアの国家安全保障上層部が中国に対して抱く深い疑念を明らかにしていた。

文書によると、ロシア軍は世界の大国との衝突が初期段階にある時に戦術核兵器を使用する訓練を行っており、それには中国共産党(中共)の侵攻シナリオに対応する演習が含まれている。

英国の『フィナンシャル・タイムズ』がこれらの機密文書を入手し、文書を審査し検証した専門家は、これらの機密文書には、ロシア軍が戦術核兵器を使用する閾値(しきいち)についての記述があり、それはロシアが公に認めているよりも低いと述べている。

これらの機密文書には、2008年から2014年の間に作成された29件のロシアの秘密軍事文書が含まれており、それには兵棋演習のシナリオや海軍将校への訓練プレゼンテーションが含まれ、核兵器の運用原則について議論されている。これらの文書は西側の情報筋によって『フィナンシャル・タイムズ』に提供された。

中共の侵攻を想定したシミュレーションを実施したロシア軍 

漏洩文書に記述された演習の一つをみると、ロシアが中国からの攻撃に直面していると想定される。

演習では「北方連邦」と呼ばれるロシアは、「南方」の第二波部隊の前進を阻止するために戦術核攻撃を行う可能性があるとされている。文書には「総司令官は命じる……敵が第二梯隊を展開し、南方(中国を指す)が主要な攻撃方向へのさらなる進攻を脅かしている場合、核兵器を使用する……」と記されていた。

 『フィナンシャル・タイムズ』によると、プーチン氏が中共との同盟を始め、2001年には核の先制不使用協定を締結しているにもかかわらず、上述の防衛計画にロシアの安全保障機関の上層部が中共に対して抱く深い疑念を暴露しているという。

習近平が指導者に就任してから、中露は協力関係を強化し、習近平とプーチン氏は少なくとも40回会談を行った。ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を開始し、欧米から全面的な制裁を受けている中、中共はロシアとの貿易を増やし、経済的な生命線を提供し、制裁を回避するのを助け、西側から非難を受けた。

その一方、文書で暴露されたロシアの演習は、ロシアが核兵器を国防政策の基礎と見なし、特定の戦場条件下で核先制攻撃を行うために部隊を訓練していて、その方法を珍しい視点から示している。

ロシアが中共との関係を深め、部隊を東部からウクライナに移動させている一方で、ロシアは引き続き東部防衛を強化している。 

国際戦略研究所の戦略・技術、軍備管理ディレクターで、NATOや米国防省で軍備管理に従事した経歴を持つウィリアム・アルバーグ氏は、ロシアは中国国境に近い極東地域で核ミサイルの強化と訓練を続けている。そして多くのシステムにあるのは、中国を攻撃する射程だけだと明かした。

ロシアはこれらの漏洩文書に記載された「核兵器使用の理論」に従って行動している。ロシアは、中共がモスクワ以外の問題に気を取られている機会を利用して「ロシア人を中央アジアから追い出そうとする」ことを恐れている可能性があると指摘している。

これらの漏洩文書は、2022年のウクライナへの侵攻前後に、ロシア軍が定期的に行った演習パターンを反映していた。

またアルバーグ氏は、昨年6月と11月に中国との国境に近い2か所で、核能力を持つ9K720「イスカンデル」ミサイルの演習が行われた事例を指摘している。

他にも「戦略国際問題研究所」(CSIS)のチャイナパワープロジェクト研究員、ブライアン・ハート氏は、ソーシャルメディアXで中露関係についての見解を発表している。

彼は、中露関係は「共通の価値観」や尊重に基づくものではなく、主に利益に基づいており、「状況が変われば利益もすぐに変わる」と述べている。

中央アジアはロシアの伝統的な勢力圏であり、ロシアの「裏庭」と見なされている。中共は近年、中央アジアでの影響力を増大させようと試み、ロシアの警戒心を呼んでいる。

2022年9月、習近平は中央アジア国家ウズベキスタンで開催された「上海協力機構」のサミットに参加した。当時、ウクライナ危機で忙しいプーチン氏もサミットに出席していた。分析によれば、中露は米国に対抗する点では一致しているものの、カザフスタンやウズベキスタンなどロシアの伝統的な勢力圏内では競争が見られる。

 

 (Photo by Mikhail KLIMENTYEV / SPUTNIK / AFP)

漏洩文書が明らかにするロシアの核兵器使用基準

文書は、敵がロシア領土に侵入した場合から、より具体的なトリガーとなる要因まで、ロシア軍が核兵器を使用する潜在的な基準を明らかにしている。

海軍将校向けの訓練用プレゼンテーションでは、敵がロシア領土に上陸したり、国境地帯を守る部隊が敗北したり、敵が通常兵器で攻撃を始める直前の場合を含む、核攻撃のより広い基準を概説している。

プレゼンテーションは、核兵器使用の閾値を一連の要因と組み合わせて要約しており、その中でロシア軍が受けた損害は「敵の侵略を阻止できなくなるものとなる」とされる。これは「ロシアの国家安全保障にとっての危機的状況」だとされている。

ベルリンにあるカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのディレクター、アレクサンダー・ガブエフ氏は、「公共の領域でこのような報告を見るのは初めてだ」と述べ、「(ロシア軍が)通常の手段で期待される結果を達成できない場合、核兵器を使用する作戦閾値はかなり低いことが示されている」と指摘している。

ロシアの戦術核兵器は、陸上や海上から発射されるミサイルや航空機から発射されるもので、欧州やアジアの限定的な戦場で使用することを目的としている。

現代の戦術核弾頭は、1945年に長崎と広島に投下されたものと比較して、はるかに大きなエネルギーを放出することができる。

戦術核兵器には、侵略を阻止し、ロシア軍が戦闘中や領土上で敗北することを防ぎ、ロシア海軍を「より効果的にする」など、幅広い目的の達成が期待されている

漏洩文書で述べられている核兵器使用の閾値は、ロシアが公に表明しているものよりも低い。

プーチン氏は昨年、ロシアの核ドクトリンでは核兵器の使用が2つの可能性の閾値を許容していると述べている。

1つ目は敵からの最初の核攻撃を受けた後の報復、2つ目は「ロシアの国家としての存在自体が脅威にさらされる」場合である。

しかしプーチン氏自身は、これらの2つの基準が満たされる可能性は低いと付け加え、ロシアの強硬派が核兵器使用の閾値を下げることを公に呼びかけるのを退けている。

張婷