[東京 29日 ロイター] – 米国の重要な同盟国である日本で与党が過半数を失った衝撃と、国内情勢を不安定化させかねない11月5日の米大統領選は、中国をはじめとした諸国にとって、東アジアにおける西側陣営の決意を試す機会となる可能性がある。
中国は日本への領空・領海侵犯を増やすとともに台湾への圧力を強め、ロシアと安全保障協力を深めつつある北朝鮮はより頻繁に弾道ミサイルを発射する恐れがあると専門家らはみている。
今月27日の衆議院選挙で日本の自民・公明の連立与党は2009年以来の敗北を喫し、政権を維持するために野党勢力との連携を模索せざるを得ない苦境に陥った。
「中国政府の視点からすれば、(選挙結果は)理想的なシナリオとと言える。日本が政治的に身動きできなくなる」と、安倍晋三政権で内閣官房参与を務めた谷口智彦氏はみる。「中国による日本の領空・領海侵入は頻繁化する公算が大きく、台湾に対する軍事的な挑発行動もかなり日常化するのではないか」と話す。
選挙結果を受けて日米両政府は安全保障協力への強い決意を改めて表明した。結果に対する見解を報道陣から問われた中国政府は、「内政問題」と踏み込まなかった。
しかし、自公両党で過半数を確保できなかったことで、フランスやドイツに続いて米国の同盟国の有権者が政権政党に不満を持っていることが浮き彫りになった。
フランスとドイツは北大西洋条約機構(NATO)の主要加盟国として米国の欧州防衛の一翼を担い、日本はアジアにおける米国の安全保障戦略にとって欠かせない。台湾と隣り合い、ロシア極東地域や中国沿岸を取り囲み、北朝鮮の弾道ミサイル防衛に対する最前線でもある日本列島には米国外で最大の米軍が駐留する。
中国が台湾周辺で軍事活動を活発化し、今年8月に中国軍機が初めて日本領空を侵犯する事態が発生する中、長距離ミサイルの調達を含めて日本政府は第2次世界大戦以降で最大規模の防衛力強化に乗り出している。
米戦略国際問題研究所(CSIS)で日米関係を専門とするニコラス・セーチェーニ氏は「防衛政策を巡る日本の取り組みが鈍ったり、意欲が後退するといういかなる兆候も、中国と北朝鮮が日本は弱いと主張し、米国による日米同盟強化に向けた努力を軽んじるのを後押しするだろう」と話す。
米国ではこのタイミングで、米軍支援にさらなる資金負担を日本に迫ったトランプ氏が再び大統領になる可能性が浮上している。世論調査では5日投開票の大統領選で共和党のトランプ前大統領と民主党のハリス副大統領が接戦となる見込みだ。前回20年の選挙で敗北し、結果に異議を唱え支持者が議会に突入する事態を招いたトランプ氏は、今回も敗れた場合は結果を認めない姿勢を示している。
<米国の分断、日本はどう対応>
東京にあるロールシャッハ・アドバイザリーのジョセフ・クラフト代表は「日本が安全保障から手を引くことはないものの、それに集中できず積極的な行動が妨げられる可能性がある」と語る。金融政治アナリストの同氏は「欧米の敵対勢力はこの状況を喜んでいるだろう」と話す。
衆院選翌日の28日に自民党総裁して会見した石破茂首相は、防衛力強化や米国との安全保障関係を強化する方針は決意は変わらないと表明。米国務省のミラー報道官も、日米関係が世界の平和と安全の「礎」である構図は揺るがないと強調した。
中国の軍事力が強まるにつれ、米国は日本をより重視するようになっている。今年4月の首脳会談ではミサイルの共同開発や在日米軍司令部の格上げなどを含めた歴史的な同盟の抑止力強化策を発表した。
政治リスクアドバイザー、ジャパン・フォーサイトのトビアス・ハリス氏は、自民党は政権運営を巡って減税を公約に掲げて多くの有権者の支持を集めた野党との協力を迫られており、防衛力増強の財源をどう手当てするかという厄介な問題がさらに複雑化しかねないとみる。足場が弱い政権では増税は不可能になると予想する。
衆院選で躍進し、自民党と部分的な政策協力に応じる可能性がある国民民主党は、消費税率の半減や所得減税、社会保険料引き下げ、高校までの授業料無償化を訴えている。
5カ年の防衛力整備計画が半分まで終わった今、自民党は今後の防衛戦略をさらに見直し、どう予算配分していくか議論する必要があると、米国務省の日本部長を務めたケビン・メア氏は指摘する。
「そのプロセスは近く始まる。政府がどれだけイニシアチブを発揮できるかだ」とメア氏は言う。「米国が分断する中、それが日本の安定につながる」
(Tim Kelly、Sakura Murakami、Trevor Hunnicutt、Simon Lewis 編集:John Geddie and Raju Gopalakrishnan)
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