日銀総裁「インフレ状態」発言に首相と認識差 物価情勢巡り政府・日銀の温度差浮き彫り

2025/02/05 更新: 2025/02/05

日本銀行の植田和男総裁は2025年2月4日の衆議院予算委員会で、日本経済の現状について「現在はデフレではなく、インフレの状態にある」との認識を示した。これに対し石破茂首相は同日の委員会で「デフレの状況にはないが、脱却はできていない」と述べ、インフレ状態との明言を避けるなど、政府と日銀の現状認識に差異が表れた。

植田総裁は立憲民主党の米山隆一氏への答弁で「消費者物価指数(生鮮食品除く)が2023年度以降2%を上回り続けている」と指摘。日銀が2024年7月に公表した「経済・物価情勢の展望」では、2026年度まで物価上昇率が2%以上継続するとの見通しを強調した。2024年12月のコアCPI(生鮮食品除く)は前年同月比3.0%上昇しており、物価安定目標を大きく上回る状況が続いている。

これに対し石破首相は「賃金上昇は持続せず、再びデフレに戻るリスクが排除できない」と説明。政府はデフレ脱却宣言を見送っており、「消費者の実感に乖離(かいり)がある」との慎重姿勢を示した。

経済学者の間では「消費者物価の数値上では、インフレ状態」との指摘がある一方、家計調査では実質賃金の伸び悩みが続き、国民の実感とのズレが課題となっている。市場関係者のなかには「政府と日銀の認識差が金融政策の先行きに不透明感を与える」との指摘もある。

日銀は2024年7月と2025年1月に政策金利を0.25%ずつ引き上げ、現在0.50%に設定。追加利上げ観測が強まる中、政府との連携が今後の金融政策運営の鍵を握るとみられる。

デフレ脱却宣言へのプロセス

デフレ脱却宣言のプロセスは、政府主導で進められる複雑な判断過程である。まず、内閣府が中心となり、消費者物価指数、GDPデフレーター、需給ギャップ、ユニット・レーバー・コストの主要4指標を分析する。これらの指標に加え、賃金上昇率、企業の価格転嫁動向、家計の物価予想など、多角的なデータを総合的に評価する。

次に、経済財政諮問会議において、政府関係者と民間有識者を交えた詳細な議論が行われる。この会議では、経済の現状分析や将来予測、デフレ脱却に向けた政策の効果などを検討する。日本銀行からも物価動向や金融政策の状況について情報提供がされ、政府と日銀の認識の擦り合わせが行われる。

これらの分析と議論を踏まえ、最終的には内閣総理大臣がデフレ脱却の判断を下す。この判断は、単に物価上昇率が一定期間プラスになったことだけでなく、経済構造の変化や持続可能性、国民の実感なども考慮に入れた総合的なものとなる。

デフレ脱却宣言は、政府が経済状況を慎重に見極め、将来的にデフレに逆戻りするリスクが十分に低下したと確信できた段階で行われる。この宣言は、日本経済が長年のデフレから脱却し、持続的な成長軌道に乗ったことを公式に認めるものであり、今後の経済政策の方向性にも大きな影響を与える重要な決定となる。

大紀元日本の記者。東京を拠点に活動。主に社会面を担当。その他、政治・経済等幅広く執筆。
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