ブリティッシュ・スチール国有化 中共反発 敬業集団は賠償要求

2026/07/24 更新: 2026/07/24

英政府は7月16日、雇用を守り、国家に不可欠な製鉄能力を維持するため、鉄鋼大手ブリティッシュ・スチールを国有化したと発表した。同社を所有していたのは中国の敬業集団で、中国共産党(中共)政府はこの決定に反発している。

敬業集団は英政府に賠償を求める方針を示している。一方、英政府は、賠償額がゼロになる可能性も排除していない。

英政府報道官によると、政府は国有化を決める前に敬業集団と交渉したが、「納税者の利益にかなう合意には達しなかった」という。

英議会は7月15日、公共の利益にかなうと判断した場合、政府が鉄鋼会社の株式や資産を国有化できるようにする「2026年鉄鋼産業国有化法」を可決した。政府は同法に基づき、翌16日にブリティッシュ・スチールを国有化した。

高炉による製鉄能力を維持

国有化により、英政府はブリティッシュ・スチールの経営方針を決める権限を持ち、スカンソープ製鉄所の高炉を稼働させ続けることができるようになった。

ただ、政府は同社を長期にわたって運営する考えではないとみられる。英会計検査院によると、スカンソープ製鉄所の操業維持には1日当たり約130万ポンドがかかっている。

同製鉄所はスカンソープで約2千700人を雇用し、関連するサプライチェーンでも数千人の雇用を支えている。

現在、イギリスは鉄鋼需要の大半を輸入に頼っており、主な供給元はEU、アメリカ、中国、インドなどだ。

スカンソープ製鉄所が鉄鉱石を原料とする鉄鋼の生産を停止すれば、イギリスはG7の中で唯一、鉄鉱石から鋼材を一貫生産する能力を失うことになる。

イギリスのほかの製鉄所では、鉄スクラップを溶かして新たな鋼材を生産する電炉が主に使われている。

英政府は長期的には、国内の鉄鋼生産を高炉から、操業コストが低く、二酸化炭素の排出量も大幅に少ない電炉へ転換する方針である。ただし現時点では、鉄鉱石から鉄鋼を生産する能力を失うことは避けたい考えだ。

スカンソープ製鉄所で生産される一部の鋼材は、現在、イギリスのほかの製鉄所では製造できない。その多くは、鉄道インフラ管理会社ネットワーク・レールや建設業界に欠かせないものとなっている。

英政府、賠償ゼロも排除せず

中共商務省は、ブリティッシュ・スチールの国有化について、「敬業集団の正当な権益を著しく侵害し、中国企業の対英投資への信頼を大きく損なった」と非難した。

敬業集団は19日に発表した声明で、イギリス側の措置について、「法的手段を通じて最後まで争い、全額賠償を求める」と表明した。

英政府報道官によると、今秋に公表予定の賠償規則案では、独立した評価者が、賠償を支払う必要があるかどうかと、その金額を決定する。

ブレア・マクドゥーガル商務・貿易担当政務次官も下院で、政府が秋に独立評価者を任命し、「支払うべき賠償があるかどうかを判断する。賠償額がゼロとなる可能性もある」と述べた。

英政府が敬業集団の賠償要求に強い姿勢を示す背景には、同社によるブリティッシュ・スチールの経営や資金調達をめぐる問題がある。

敬業集団は2020年3月にブリティッシュ・スチールを買収した際、今後10年間で12億ポンドを投資すると表明した。

計画には、ティーズサイドでの電炉建設、スカンソープでの出力250メガワットの発電所新設、圧延工場への投資、鉄筋の新たな生産ラインの整備、鉄道用レール工場の改修などが含まれていた。

しかし2023年1月、敬業集団は石炭を使う高炉から電炉への転換を進めるため、英政府に3億ポンドの支援を求めた。

英政府と敬業集団の交渉は合意に至らなかった。敬業集団は2025年3月、スカンソープ製鉄所の閉鎖に向けた協議を開始し、同製鉄所の操業で1日当たり70万ポンドの損失が出ていると説明した。

その1か月後、英政府は緊急法に基づき、スカンソープ製鉄所の操業を政府の管理下に置いた。

「投資」の多くはグループ内融資

敬業集団は、ブリティッシュ・スチールに数億ポンドを投じたと主張している。

しかし、英メディアの調査によると、これらの資金の多くは、企業に資本として直接投入されたものではなく、親会社や関連会社からの融資として提供されていた。

英紙「フィナンシャル・タイムズ」によると、敬業集団は2020年、ブリティッシュ・スチールを7千万ポンドで買収した。その後、同社に数億ポンドの資金を供給したが、帳簿上は、親会社や海外の関連会社からの株主融資として計上されていた。

同紙は、こうしたグループ内融資の金利が一般的な市場水準より高かったと指摘している。ブリティッシュ・スチールが巨額の赤字を抱え、経営危機に陥っている間も、帳簿上は中国側の親会社に多額の利息を支払うことになっていたという。

このように出資を抑え、親会社からの融資を増やす手法は「過少資本化」と呼ばれる。利払いを通じて利益を移転し、イギリスでの法人税負担を抑える手段ではないかとの疑念も出ていた。

こうした「出資ではなく融資」という資金構成には、経営上のリスクを親会社から切り離し、税負担を抑える狙いがあったとの見方がある。

イギリスの倒産手続きでは、企業が清算された場合、債権者は通常、株主より先に弁済を受ける。敬業集団がブリティッシュ・スチールの主要な債権者となっていれば、製鉄所が閉鎖・清算された際、資産の売却代金から優先的に資金を回収できる可能性がある。ブリティッシュ・スチールは2023年末時点で、敬業集団の関連会社に多額の債務を抱えていた。

英国側の資産を担保に資金調達か

英紙「ガーディアン」の調査によると、敬業集団はブリティッシュ・スチールの買収後、工場や土地などの中核資産を担保に、中国銀行を含む中国国内の銀行や一部のヨーロッパ金融機関から、新たな融資枠を確保したという。

鉄鋼業界のアナリストや労働組合関係者からは、敬業集団が自社資金による長期的な産業投資を行うのではなく、イギリスの重要な産業基盤を資金調達の手段として利用したとの批判が出た。

こうした問題が報じられた後、英会計検査院や商務当局は、敬業集団に電炉への転換を目的とする数億ポンド規模の補助金を支給することに慎重になった。

英政府は、納税者の資金を敬業集団に直接支給した場合、その資金が工場の近代化ではなく、グループ内の高金利融資の返済に充てられるおそれがあるとみていた。これが、英政府と敬業集団の交渉がまとまらなかった主な理由の一つだと分析されている。

今回の国有化により、イギリスと中共の関係がさらに緊張する可能性がある。国有化後の7月20日に発足したアンディ・バーナム政権は、国内の製鉄能力と雇用を守りながら、中共政権との関係をどのように調整するかという難しい対応を迫られる。

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