他人の畑の作物を、大勢の村人が集団略奪した。
これは単なる窃盗ではない。農業という万古からの営みのなかで、まじめに働き、誠実に生きるという、言わば人間の根幹が崩壊したことを意味する。他人の畑の作物を強奪すれば、それは土匪(盗賊)であって、もはや農民ではない。
先月31日、河南省周口市の畑で、付近の村民400〜500人余りが群がり、漢方薬の原材料である白朮(びゃくじゅつ)の集団略奪事件が起きた。事件当日、畑主たちは自身の畑で育てた薬材の収穫作業を行っていたが、その現場を、付近の村民が集団で襲ったのだ。
被害に遭ったのは500畝(ムー)規模の畑で、奪った側の村民は、ほとんどが中高年だったという。(中国の1畝は約6.667アール。15畝が1ヘクタールに相当)
SNSに投稿された現場の映像のなかには、被害に遭った畑主の中年女性が畑に座り込んで泣きながら大声で制止するものの、その叫びを全く聞かず、奪い続ける「略奪者」の姿があった。
全員が付近の村民である「略奪者」は、それぞれ薬草を掘るための道具やカゴやバケツのようなものを持って来ている。まるでここが「我が畑」であるかのように、少しも悪びれず、他人の畑を行ったり来たりして地面を掘っている。
その様子を、ただ眺めるしかない畑主の年配の女性。畑に座り込んだまま、大声で泣き「ああ、これまで苦労して育てた薬材が、全て奪われた!」と叫んでいた。畑主の目の前で続く略奪行為は、もはや地獄絵図と言ってよい。
畑主の親戚によると、「この畑は、最近の数年間はずっと赤字だったが、今年になってようやく良くなる見通しが立っていた。今は収穫時期であるため、20人余りの警備員を雇い、畑の両側から警備していたが、それでも目を血走らせた大勢の村民による略奪を止められなかった」という。
畑主の通報で「犯行現場」に駆け付けた警察が、拡声器を使って村民の略奪行為を止めようとしたが、完全に無視されたという。結局、警察でさえも、大勢の村民による略奪を止められなかったのだ。
すさまじい「嵐」が去った後には、あちこち掘り起こされ、荒れ果てた畑だけが残った。奪われた高価な薬材は約1トン。被害額は日本円にして約410万円に上るという。
畑の関係者によると、村民によって薬材を奪われるのは今回が初めてではないという。これまでにも、近くの複数の薬材畑で同様のことが起きている。
事件の翌日(11月1日)、現地の村役人は「村民たちは、そこが収穫が終わった畑だと勘違いしていた」と主張した。つまり、収穫が終わった後の「残り物」を拾いにきただけだ、というのだ。
しかし、映像を見る限り、これは明らかに狙いをつけた略奪である。「勘違い」と主張するこの村役人も、あるいは略奪に加担していたのだろうか。
村民たちがそのような略奪を行う理由について、NTD新唐人テレビの取材に応じた地元民は、次のように話す。
「現地の村民、とくに老人たちは土地もなく、収入もない。その子供たちにもお金がないため、生活はとても苦しい。毎月もらえる年金はわずか80元(約1,600円)しかなく、病院もいけない」
また、別の地元民は「農村の多くの土地は政府に徴用され、若者たちは他所へ出稼ぎに出てしまっている。この経済不況のなかでは収入もなく、ごはんを食べられるかどうかも分からない」という。
さらに「実際、これほど大規模な集団略奪は、以前は見たことがない。しかし今年は、それが相次いでいる。庶民の暮らしが本当に苦しくなったことを実感する」と、その地元民は語った。
河南省では、9月末にも野外音楽フェスティバルで大規模な窃盗事件が起きた。
10月14日には、同じ周口市でトウモロコシ畑の集団略奪が起きている。略奪の犯人は今回と同様、付近の村の住民たちとされている。
(畑主の女性が「盗らないでよ!」と絶叫するなかで行われる、村民たちの集団略奪)
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