中国共産党(中共)海軍の空母2隻が、初めて同時に日本近海の太平洋に進出したことを受けて、日本政府は中国側に対し「日本の安全保障上の脅威とならないよう」申し入れを行った。中谷防衛大臣は6月10日の閣議後記者会見で明らかにし、今後も警戒監視を徹底する方針を示した。
防衛省によると、今月7日から9日にかけて、中共海軍の空母「遼寧」と「山東」が沖縄や小笠原諸島周辺の太平洋で確認された。2隻が同時に太平洋に展開するのは初めてであり、うち「遼寧」は小笠原諸島からグアムを結ぶ「第二列島線」の東側まで進出したことも初めて確認された。


中共海軍は、今回の訓練は年次計画に基づく定例訓練であり、遠海防衛や合同作戦能力の検証を目的としていると発表した。中国側は「特定の国を対象としたものではなく、国際法に則っている」と主張し、日本に対しても「客観的かつ理性的な対応」を求めている。
一方、日本政府は、2隻の空母が日本の排他的経済水域(EEZ)内で航行し、艦載機やヘリコプターの発着訓練を行ったことについても警戒を強めている。中谷防衛大臣は「引き続き警戒監視を徹底し、情報を適宜公表することで、力による一方的な現状変更やその試みを抑止する」と述べた。
中国の空母2隻が同時に太平洋に進出し、実戦訓練を行った事例はこれまでになく、今後も日本周辺の安全保障環境に大きな影響を与える可能性がある。日本政府は外交ルートを通じて中国側に自国の立場を伝え、引き続き状況の監視を続けていくとしている。
第二列島線とは
第二列島線とは、中共政権が安全保障上の重要な防衛ラインと位置付けている概念で、伊豆諸島から小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインを指す。このラインはもともとアメリカの中国封じ込め政策に対抗する形で、中共軍が海軍近代化の指針として打ち出したものであり、台湾有事や対米有事の際に、アメリカ軍の増援を阻止するための軍事的な目標線とされている。
中国にとって第二列島線の内側を自国の影響下に置くことは、沿海部の都市や経済活動を米軍の攻撃から守る「バッファーゾーン」を広げる意味を持つ。また、台湾統一を目指す中国にとって、アメリカ軍の介入をできるだけ遠ざけるために、このラインまで海軍力を展開することが戦略的な目標となっている。
日本にとって、この第二列島線の戦略は大きな脅威である。なぜなら、第二列島線は日本の伊豆諸島や小笠原諸島を含み、日本の排他的経済水域(EEZ)や領土のすぐ近くまで中共軍の活動範囲が拡大することを意味するからだ。中共海軍がこのラインまで進出し、空母を展開することで、日本の安全保障環境は一層厳しくなる。特に、台湾や尖閣諸島周辺での緊張が高まった場合、米軍の増援や自衛隊の行動が中国軍によって妨害されるリスクが現実味を帯びてくる。
さらに、中国はこの第二列島線で太平洋を分割し、西太平洋を自らのコントロール下に置くことを長期的な目標としているとの指摘もある。これにより、米軍や日本の自由な航行や防衛行動が制約される恐れがある。
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