中国において社会や制度、都市開発のスピードを強調する言葉に「中国速度」というものがある。もともとは2008年以降、加速度的に整備された中国の高速鉄道などで使用されていたが、その裏では安全性に深刻な問題を抱えているようだ。
青海省で建設中だった高速鉄道の橋、「尖扎(せんさつ)黄河特大橋」が8月22日未明に倒壊し、工事に従事していた作業員ら16人が高さ約100メートルの橋上から転落した。国営メディアによれば、同日夜までに12人の死亡が確認され、4人が行方不明となっている。
橋は両岸の塔からワイヤーロープで支える構造であり、そのロープと橋をつなぐビームアンカーの切断が事故原因とみられる。
ネット上では「これが中国速度の正体だ」「突貫工事を昼夜続けるから事故が絶えない」と批判が相次いでいる。ここでいう「突貫工事」とは、工期に間に合わせるため昼夜を問わず強行する無理な施工を指し、安全や品質が軽視される危険な作業形態を意味する。
安全管理に疑念
崩落した橋は、中国で初めて黄河を跨ぐ鉄道用の巨大な鋼鉄アーチ橋として注目されていた。しかし建設は遅れを取り戻すため、夜間を含む二交代制で突貫工事が行われていた。
事故原因については、中国メディアの報道によれば、浙江工業大学の土木工学教授・彭衛兵氏が「ケーブル断裂はロープ自体の材質に欠陥があったか、あるいは施工の不備が原因」と指摘している。工期短縮を優先した無理な施工と安全管理の甘さが背景にあるとの見方が広がっている。

度重なる「おから工事」 国民の不信拡大
今回の事故は、中国で繰り返されてきた建設事故の延長線上にある。
2008年の四川大地震では、おから工事と呼ばれる手抜き工事で校舎が相次いで倒壊し、多くの児童が犠牲となり、大きな社会問題となった。2012年には黒竜江省ハルビン市で橋が崩落。AFP報道によれば、その前1年間で中国ではすでに6つの主要な橋が崩落していた。

施工を担った国有大手・中国鉄道集団(中鉄集団)も、海外事業を含め質の低い工事や腐敗問題を繰り返している。今年3月、タイ・バンコクでは地震の影響を受けた建設中のビルが倒壊し92人が死亡、昨年はセルビアの鉄道駅屋根が崩落して16人が犠牲となった。いずれもずさんな施工と不正な資金流用が重なり、工事の品質が大きく損なわれたとされる。
「成長神話」を演出する突貫工事の陰で、人命は軽視され続けている。命よりスピード、利益を優先する国に待っているのは崩落と犠牲だけだ。これは中国の現実であり、日本への警告でもある。

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