中国で赤ちゃんの売買ルートを告発した民間の有志が、通報後「逆に逮捕される」という異常事態が起きた。
反・人身売買の有志として知られる上官正義(じょうかん・せいぎ)氏は、湖南省懷化(かいか)市で人身売買の闇を追っていた。
彼は数日間にわたり潜入調査を行い、赤ん坊を安く買い取り高額で転売する業者の実態をつかんだ。11月1日、同氏はSNS上でその調査結果を告発し「小紅書(中国版インスタグラム)」を通じて赤ちゃんが売買されている事実を明らかにした。

業者は「偽の出生証明書」を発行し、売買された赤ん坊を「合法の子」として登録していたという。1人あたりの転売利益は約8万元(約172万円)にのぼるとされる。
上官氏がこの実態を地元警察に通報したところ、逆に「違法なおとり行為をした」と決めつけられ、携帯電話を没収。3時間以上にわたって行動を制限され、その間、トイレに行くことさえ許されることもなく、極めて不当な扱いを受けた。
上官氏は「私は容疑者ではなく、通報者だ」と強く訴えるも、地元警察は対応を改めず、事実上の黙殺を続けた。
その後、当局は3人の赤ん坊を救出し、4人の容疑者を逮捕したと発表したが、上官氏への弾圧には一言も触れなかった。

過去にも「病院ぐるみの人身売買」を暴いた
上官氏はこれが初めての告発ではない。昨年、湖北省襄陽(じょうよう)市の健橋医院(けんきょういいん)が赤ん坊を販売していた事実を暴き、同院の院長ら6人が逮捕されるきっかけを作った人物でもある。
調査で、病院が偽造した出生証明書を使い、新生児を売買していたことが明るみとなった。その事件で上官氏はネット上で英雄視された一方、病院関係者から4億円超の懸賞金をかけられたとも報じられた。
こうした経緯から、今回の湖南での「逆逮捕」は単なる誤認ではなく、人身売買ネットワークを守ろうとする勢力による報復とみる声が強い。

警察と犯罪組織の「持ちつ持たれつ」?
海外中国人権弁護士連盟の代表・呉紹平(ご・しょうへい)氏は、こうした犯罪グループがSNS「小紅書」で堂々と赤ん坊を売買できるのは、背後に当局の庇護があるからだと指摘する。「当局は金銭目的だけでなく、より邪悪な目的を持っている可能性がある。犯罪組織と結託し、子供だけでなく人の臓器までも売買している恐れがあり、すでに一つの産業になっている」と警鐘を鳴らした。さらに「上官正義氏は中国ではよく知られた反・人身売買の有志だが、もし彼が一般市民だったなら、拘留されるか、あるいは『消されていた』可能性すらある」と強調した。

前・北京の弁護士で民主陣線カナダ支部主席の頼建平(らい・けんぺい)氏も「警察はしばしば人身売買組織と結託しており、そこには明確な利権構造がある。誰をいつ逮捕し、どこまで摘発するかも警察の都合次第だ。犯罪がなくなれば権限を使って利益を得る余地がなくなるため、警察と人身売買グループは持ちつ持たれつの関係にある」と指摘した。

消える人々 閉ざされた真実
統計によれば、中国では年間で少なくとも100万人以上が行方不明になっている。しかし、民間調査ではその数は数百万人規模に達するとも言われる。
今年7月、25年間にわたり家族を探す手助けをしてきた民間サイト「中国尋親網(ちゅうごく・じんしんもう)」が突然閉鎖された。

この閉鎖により、行方不明の子供を探す多くの親たちは頼みの綱を失い「なぜ今、閉鎖されたのか」「失踪者データが隠蔽されたのではないか」との疑念が広がった。一部では「失踪した子供たちが臓器提供のドナーにされているのではないか」との不安の声も上がっている。
行方不明者が増え続ける一方で、真実を告発した者が弾圧される。「この国では真実を暴く者こそ、最も危険な立場に立たされる」――それが、いまの中国の現実である。

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