中国の大型ネットセール「ダブルイレブン(双11・11月11日)」が、今年は過去に例のない静けさのまま幕を閉じた。
かつては中国で最もお金が動く日とされ、SNSには「買った!」「安すぎる!」という投稿があふれ、深夜までお祭り騒ぎになるのが恒例だった。しかし今年は、その盛り上がりが完全に消えた。
SNSでの「買ったよ~」の報告も明らかに減り、ネット通販業者も例年のような活気を失った。
さらに、ダブルイレブンの売上を牽引してきた中心的な配信者たちも一斉に後退している。フォロワー1億人を抱える中国トップ級の配信者・辛巴(シンバ)は配信から退くと宣言し、人気インフルエンサー「口紅王子」こと李佳琦(リ・ジャーチ)も、配信中に「追い詰められて引退したい」と漏らした。
今年は複数の通販プラットフォームが販売期間を引き延ばし、史上最長のダブルイレブンとなった。しかし史上最長の「延命策」も効果ゼロで、肝心の売上は動かなかった。
ライブ通販を運営するチームも、今年は胸を張れる数字を出せなかった。例年なら「何億円売れた!」と誇らしげに投稿を連発する彼らだが、今年は複数のチームが売上の発表そのものをやめてしまった。
中には、「ヤケクソなのか?」と驚くような発言もあった。「SNSに流れる○億円売れた、なんて数字はもう信用しないほうがいい。実際とはまったく違う」と、自虐気味に内幕を明かすスタッフまで現れた。
さらに、ダブルイレブンの根幹だった「最安値」への信頼も崩れた。「口紅王子」李佳琦の配信で、予約価格より店頭の現物のほうが安かった例が相次ぎ、大量の返金騒動に発展。「本当にここが一番安いのか?」という疑いが広がり、消費者の購買意欲をさらに冷やした。
業界分析では、人気配信者の失速の根本原因として、経済の悪化や政府・プラットフォーム側のたび重なる規制変更が挙げられている。高失業率や不動産不況など複合的な不安が重なり、多くの人が「無駄遣いはしない」という姿勢に転じたとみられる。

一方で、ネット通販業者の苦境は深刻である。セールをしても売れず、宣伝費だけが消え、返品は急増している。ある業者は「売上より罰金と返品が多くて、働けば働くほど赤字が増える」と嘆き、別の業者も「規則が多すぎて罰金が重い。もう続けられない」と悲鳴を上げるなど、各地で限界の声が相次ぐ。
背景には、中国特有の「罰金」と「売上代金の凍結」という仕組みがある。商品の評価が悪かったり配送が遅れたりすると、プラットフォームが店に罰金を科し、売上代金もすぐには支払われない。さらに価格競争が激しく、供給網の弱い店舗から次々と淘汰される状況が続いている。
今年は第3四半期から「増値税(日本の消費税にあたる付加価値型の税)」も本格的に徴収され、業者は価格を上げざるを得なかった。これが節約志向の消費者をさらに遠ざけている。
こうしたダメージが重なり、ダブルイレブンが終わった途端、ネット通販業界は倒産ラッシュに突入している。
かつて「爆買いの日」として中国経済の象徴だったダブルイレブンの急失速は、中国の景気悪化がいよいよ隠しきれない段階に来たことを示している。

ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。