「一帯一路」は、中共党首・習近平が主導する、約70か国にわたる投資計画を伴う国際経済圏構想で「大国外交」戦略の中核とされてきた。
しかし、中共が誇示してきたこの「壮大なプロジェクト」は行き詰まりを見せており、世界の少なくとも14か国で労働者への賃金未払いが発生していると指摘されている。
中共商務部と国家外貨管理局が公表したデータによると、今年の最初の7か月間で、中国の「一帯一路」関連の非金融分野への直接投資は1607億人民元(約3.7兆円)に達し、47の中央企業(国有企業)が参加し、建設プロジェクトは合計3116件に上った。
一方で、ネット上の報告を集計した統計によると、中国中鉄、中国鉄建、中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)、中国石油化工(シノペック)などの中央企業が、世界の少なくとも14か国で賃金を滞納しており「一帯一路」は「一欠一路」(=借金だらけのプロジェクト)と揶揄されている。
11月28日には、イラクで働く中国人労働者が動画投稿アプリ「抖音(ドウイン)」上で助けを求めた。
この労働者によると、雇用主である中国企業は長期にわたって賃金を支払わないだけでなく、現地の関係者と結託して銃で労働者を脅迫・抑圧しており、中国大使館も対応していないということだ。
11月24日には、ロシアのバルト海地域で多数の中国人労働者が賃金未払いに抗議し、ストライキやデモ行進を実施した。
11月5日には、ギニアの中国人労働者が賃金の支払いを求めて道路を封鎖するストライキを行った。11月3日には、中国建築第五局のアルジェリア現地の労働者が給与未払いに抗議してストライキを行った。
また、今年サウジアラビアで中国石油化工(シノペック)が手掛けているプロジェクトでも、7か月分の給与が滞っているため、数百人の労働者が集団ストライキを起こしている。
台湾の経済評論家・黄世聡氏は「一帯一路」は本来、中国の過剰なインフラ建設能力を海外に振り向けることで中共の影響力を強める狙いがあったものの、多くの投資が無駄なインフラに費やされ、債務回収が不可能となって「債務の罠」を生み、中国と関係国との緊張を招いたと指摘する。
そのため「一帯一路」はすでに失敗した計画だと見ている。
台湾の経済評論家・黄世聡氏はさらに次のように述べる。
「一帯一路」の先頭に立って投資してきたのは多くが中央企業だ。かつて業績が良かった時期には、海外への資金供給も十分に可能であったが、現在は自社の経営も苦しくなっており、こうした大規模な資金流出の継続が自らの財務を圧迫する状況になっている。膨大な債務が、むしろ中央企業を圧迫する主要な要因となっているのだ」
台湾国防安全研究院の研究員・沈明室氏は、こう分析する。
「一帯一路」のプロジェクトでは、資金を現地国が負担するのではなく、基本的に中国側が拠出している。そのため、中国本土が高い債務を抱え資金が不足する局面では、国有企業は国内からの支援や補助を十分に受けられない。国内で賃金未払いが起きたり人員整理を進めている状況下でも、海外の工事を容易に止めることができず、その結果として賃金を支払えない事態に陥っているということだ」
中国の国有資産監督管理委員会の情報によると、中国の対外直接投資では国有企業が絶対的な主導権を握っているが、投資案件のうち、利益を上げているもの、損益がほぼトントンのもの、赤字のものがそれぞれ約3分の1ずつを占めているとされている。
例えば、中国電力投資集団が出資したミャンマーのミッソン水力発電所プロジェクトは、ミャンマー政府により中止され、36億ドル(約5500億円)の損失に直面している。
黄世聡氏は、中共の対外援助プロジェクトの大半は大規模インフラ事業だが、その多くは相手国が必ずしも必要としていない案件だと指摘する。
黄世聡氏は「そうした国々が必ずしも必要としていないにもかかわらず、なぜ建設が進むのか。そこには現地政府との癒着が存在するとし、例えば空港一つの建設で10億~20億ドル(約1500億~3000億円)が動き、その過程で中抜きや汚職が横行している。腐敗や多重下請けなど、さまざまな問題が入り込んでいるということだ」と述べている。
黄氏はさらに「それが中央企業の幹部と現地政府官僚による汚職の供給チェーンとなり、粗悪な工事、投資回収不能、給与未払いなど多くの問題を引き起こしている」と指摘する。
一方で、中共による「債務の罠」に陥った複数の国が、次々と「一帯一路」からの離脱や参加停止を宣言している。
イタリア、パナマ、エストニア、フィリピンなどがその代表例だ。
沈明室氏は、「一帯一路」の多くのプロジェクトは第三世界の国々に集中しており、関わる中国企業は国内の不正な慣習や手法を持ち込み、それが現地社会にも悪影響を及ぼしていると指摘する。
沈明室氏は「一部の国や団体は、こうした腐敗や管理体制の在り方に異議を唱えており「一帯一路」参加国の間では中共政権への不信感が高まるとともに、中国企業の工事品質の低さや現地での施工態度への不満も強まっている。その結果、受け入れ国の政府の廉潔性や行政効率にも悪影響が及んでいるとみられる」と指摘した。
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