「もし声を上げて泣けないなら、この馬が代わりに泣いてくれる」
今年は馬年である。本来なら前向きさや元気の象徴とされる年だが、中国で今、静かに売れ続けているのは、笑顔ではなく、泣きそうな顔をした馬(「哭哭馬」)のぬいぐるみなのだ。
赤い小さな馬。しかし、その顔は笑っていない。口がへの字に曲がり、今にも泣き出しそうである。
もともとは失敗作だった。本来はにこっと笑うはずの口を、工場で反対向きに縫ってしまった。それだけの話だった。
ところが、この「泣きそうな顔」を見た人々が、こう言い始めた。
「これ、まさに今の自分」。
そんな声が広がり、気づけば大ヒット商品となっていた。
今の中国では、若者の多くが生活の余裕を失っている。仕事はなかなか見つからず、見つかっても給料は安い。家は高すぎて買えず、結婚も現実的ではない。都会で一人、黙々と働く生活が当たり前になっている。
しかし、つらいとは言いにくい。弱音を吐けば「甘えるな」と言われる。明るく前向きであることが求められる社会である。
そんな中、このぬいぐるみ馬は何も言わず、ただ黙って悲しそうな顔をしている。それが逆に、「わかってもらえた気がする」と多くの人に感じさせた。
「泣きたいけど泣けない」。
「苦しいけど、口に出せない」。
その気持ちを、この泣いている馬の表情が代弁したのである。
馬年なのに、走り出す元気がない。
前を向く余裕もない。
それでも毎日をこなしながら、生きている。
この馬が売れているのは、単にかわいいからではない。今の中国の若者が置かれている現実に、あまりにも近いからである。
泣き出しそうな小さな馬は、いまの中国の空気を、静かに伝えている。
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