日中韓財務会議 交錯するサプライチェーンの思惑と金融防衛の実務

2026/05/05 更新: 2026/05/05

2026年5月3日、第26回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議がウズベキスタンのサマルカンドで開催された。韓国の具潤哲副総理兼財政経済部長官が議長を務め、日本からは片山財務相、氷見野日銀副総裁が参加し、世界やASEAN+3地域の経済動向、ならびに変化するリスクへの政策対応について意見交換が行われた。中国は閣僚級の出席を見送った。

背景として、ASEAN+3地域は想定を上回る成長や低インフレに支えられ、相対的に強固な状態で2026年を迎えている。特に日本・中国・韓国のプラス3国は、堅調なAI需要による半導体および半導体製造装置の輸出が経済の原動力となった。しかしながら、中東における紛争の激化が地域経済の見通しに対する大きな下方リスクとなっており、事態が長期化すればエネルギー市場へのショックに留まらず、インフレ率の上昇や成長の減速をもたらす懸念が高まっている。

共同声明の主要テーマ

不確実性が高まる中、共同声明では多国間主義の堅持と地域の結束強化が強調された。具体的な取り組みとしては以下の点が挙げられる。

アジアのお金を守る「安全網(地域金融セーフティネット)」の強化

今回の会議における最大の実務的な成果は、「チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)」と呼ばれる、アジアの国々で外貨を貸し借りして助け合う仕組みの実効性を高めたことだ。

具体的には、金融危機などの緊急事態が起きた際、これまで以上に早く外貨を融通し合える「緊急融資ファシリティ(RFF)」の早期発効に向け、各国の手続きを急ぐことで一致した。さらに、実際に米ドルを借りる際の手数料や金利条件にあたる「マージン」についても、2027年から3年ごとに定期的な見直しを実施することが決まった。

デジタル時代の決済とその他の金融協力

国境を越えたお金のやり取りである「クロスボーダー決済(リテール、ホールセール、およびステーブルコイン)」について、各国がルールや仕組みをすり合わせるため、新たに専従の作業部会(WG)を立ち上げて政策対話を深めることが指示された。

さらに、その他の実務的な協力方針として以下にも合意している。

世界の貿易ルールと、モノやエネルギーの流れ(サプライチェーン)を守る協力

貿易や投資をスムーズに行うため、世界の貿易ルールを監督する国際機関である「世界貿易機関(WTO)」を中心に、一部の国に偏らず多くの国が公平に参加する仕組み「多角的貿易体制」を引き続き支持していくことが再確認された。

さらに、製品の材料調達から販売までの物流網である「サプライチェーン」や、国を動かすための電力をはじめとしたエネルギーを安定確保する「エネルギー安全保障」について、紛争や災害などのショックに強くする(強靱化する)取り組みが歓迎された。具体的には、日本が最近立ち上げた、アジア地域でエネルギーや資源の途切れない供給網をつくるための協力枠組み「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(POWERR Asia)」などがこれに含まれる。

背後にある構造的課題:サプライチェーンを巡る思惑

共同声明には「サプライチェーンの強靱化」が明記されたものの、日中韓の間には決定的な立場の違いが存在する。日本は経済安全保障の観点から中国への過度な依存を減らす「デリスキング」を進める一方、中国はこれを「デカップリング」と批判し、自由貿易の維持を強調している。 そのため、本会議においてサプライチェーンに関する具体的な政策転換などはなく、「地域の物流が止まらないように努める」という一般論にとどまった。政治・安全保障の視点からは、妥協の産物としての「形骸化」が見受けられるのが実態である。

対立の中でも「命綱」となる会議

今後の展望として、モノの供給網(サプライチェーン)に関する問題は、日本と中国の意見のすれ違いが続くため、今後も劇的な合意は期待しにくいだろう。しかし、いざという時の金融危機から国を守る「お金の防波堤(CMIMの強化など)」といった実務的な備えについては、着実な進展が見込まれる。

また、国同士の対立が激しくなる環境であっても、この会議自体が「経済の連鎖的な崩壊を防ぐための最低限の連絡網(リスクヘッジ)」として働き続けることに、大きな意味がある。

次回は2027年に日本の名古屋での開催が予定されており、韓国とシンガポールがASEAN+3プロセスの共同議長を務める。政治的課題を内包しつつも、金融分野での実務的協力をいかに深めていくかが今後の焦点となる。

エポックタイムズの速報記者。東京を拠点に活動。政治、経済、社会を担当。
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