パラオによるイノベーションの追求、経済強化を目的としたパートナー諸国からの支援、安全保障

2022/10/24 更新: 2022/10/24

パラオでは海底ケーブルを介してデジタル・コネクティビティが改善しており、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)で壊滅的な打撃を受けた同国の経済変革に寄与する可能性がある。

2022年10月中旬にワシントンDCで戦略国際問題研究所が開催した年次グローバル開発フォーラムで、パラオのカレブ・ウドゥイ・ジュニア財務相は、太平洋島しょ国(PIC)での米国の協力と関与に関するパネルに対して「この機会を活用してわが国でも経済の多様化を実現したい。

これはわが国にとって非常に重要であり、 我々はその実現に向けて支援を求めている」と述べた。 多様化を図るために、オーストラリア、日本、韓国、米国を含むインド太平洋パートナー諸国に加え、サウジアラビアなど地域外の投資家にも期待を寄せていると、同氏は述べている。

パラオのスランゲル・ウィップス・ジュニア大統領は、パラオ経済のパンデミックからの回復と税制改革の推進、債務返済能力強化を目指し、ウドゥイ氏を財務相に任命した。 ウドゥイ財務相によれば、この新たな通信リンクはまた、パラオにとって銀行システムと決済システムの改善機会を提供し、経済安全保障の強化にもつながる。

グアムを経由して国際ネットワークに接続するパラオ初の海底ケーブルは、2017年に発足したアジア開発銀行(ADB)からの融資によって資金が調達された。 第2ケーブルも完成間近で、パラオをシンガポールおよび米国本土と直接結びつけて冗長性と信頼性を確保し、通信需要の増加に対応する。 第2ケーブルの資金は、豪・日・米間のインフラ投資パートナーシップからの助成金と融資を通じて調達された。 

パラオはその西太平洋における島しょ国としての位置によって、いわゆる「ティラニー・オブ・ディスタンス(Tyranny of distance、距離の過酷さ)」に直面してきたが、ウドゥイ財務相は、このケーブルによって通信能力と技術力がもたらされることになると述べた。

2022年1月、パラオは世界中から申請できるデジタル・レジデンシー・プログラムを開始した。 「わが国には、すでに1800人のデジタルレジデントがいる。 このプログラムは主に、メタバースやその他の取引プラットフォーム、および暗号資産を利用できるようにするものだ」とウドゥイ財務相は述べている。

パラオはまた、多様化戦略の一環として、2022年にデジタル・ノマドのホスティングを開始した。

「パラオ籍を持つ、あるいはパラオに研修所施設や本社を置く、あるいはそこで会議を開催する欧米の企業にとっては、例えば香港からパラオに移った方が有利かもしれない。 パラオはアジア地域のどの主要都市からも5時間以内の距離にある」とウドゥイ財務相は語った。 ウィップス大統領は最近、物理的な接続性も強化するためにシンガポールとオープンスカイ協定を締結した。

パラオは依然として多くの課題に直面しており、パートナー諸国からの支援を必要とする。 ウドゥイ財務相は、パラオや同地域でADBや米国の国際開発庁など政府機関のオフィスが増えていることに言及し、

パンデミックはパラオに壊滅的な影響をもたらしたと説明した。 世界の他の国々の経済はすでに回復しているが、パラオ経済が回復するには10年かかる可能性がある。

「新型コロナで経済の30%以上が打撃を受けた。すぐに経済が成長に戻る見込みはない」とウドゥイ財務相は述べている。

観光に大きく依存し、米ドルをベースとするパラオ経済は、コロナ禍最中に発生した債務も含め、パンデミック後の影響も受けている。 ウドゥイ氏によると、米国政府のコロナウイルス支援・救済・経済保証法と米国救援計画法の下、米国との自由連合盟約を結ぶパラオは支援を受ける資格があるものの、パンデミック後、国の経済を維持するために債務が増える可能性が高いという。 「借金で危機からの脱出を図るというのは好ましい方法とはいえない」と氏は語る。

パンデミック前、パラオ経済は国連や世界の金融業者から「後発開発途上国」とはもはや見なされなくなるほど改善していた。 「パラオは、国民1人当たりの所得を増やすことに成功し、卒業国となったために逆に借金が増えている。 だからこそ、わが国を違った視点から見る必要があることを説得しようとしている」とウドゥイ財務相は説明する。 例えば最初の水中ケーブルの資金として、開発がもっと遅れている国であれば返済する必要のない助成金だっただろうが、パラオはADBから返済と構造改革を必要とする融資の形で支援を受けた。

世界的な米ドル高もパラオの回復を遅らせている。主にアジアからやってくる観光客にとって、パラオの物価が高くなっているためだ。 ウドゥイ財務相によると、帰国時にまだ検疫義務がある人が多く、追加費用がかかるという。 一方、世界的なインフレ圧力により金利が上昇しており、パラオにとって借入がより一層困難になっている。 燃料価格の上昇は特に深刻で、パラオのガソリン価格は1ガロン当たり6米ドルを超えるという。

ドルの実質ベースでは、コスト増もあり、「国民の所得は減少しているため、卒業国に思えない」とウドゥイ財務相は言う。

各国は援助を申し出る際に、パラオ固有の価値と立場を考慮する必要がある。 例えば、ウドゥイ財務相によれば、パラオは気候の影響に脆弱なだけでなく、大気中の温室効果ガスを吸収する大規模なカーボンシンクである太平洋の一部として地球に価値を提供している。 「問題は、わが国をどのように分類するかということだ。 パラオは簡単に型にはまる国ではない。

特にアメリカ合衆国にとって、パラオの戦略的重要性は先鋒部隊と比喩されるほどだ。 したがって、パラオがその発展状況の面から評価され、パラオがどのような援助を受けるべきかという観点から検討される場合には、これらの価値も考慮されねばならない」とウドゥイ財務相は言う。

米国は過去10年間に太平洋島しょ国に15億米ドル(約2,250億円)以上を提供してきた。 米国国務省によると、米国はインド太平洋戦略の下で、パラオおよびその他の国・地域と協力して、経済および環境面でのレジリエンス、水および食料安全保障、健康安全保障、海事領域認識、民主的な機関およびガバナンスの強化など、主要な課題に対する取り組みを継続する予定だ。

米国は最近、2022年9月下旬にワシントンDCで開催された米国と太平洋島しょ国との初サミットを通してコミットメントを強化し、そこでバイデン米大統領は8億1000万米ドル以上の拡張プログラムを発表している。

Indo-Pacific Defence Forum