中国共産党による台湾侵攻を想定した台湾の軍事演習が本格度を増すなか、民間レベルでは「オールドメイン戦」への対応が急がれている。専門家は、世論戦や心理戦による被害を抑えるためには、一般人が中共の本質とその手口を認識し、抵抗する決心を抱かなければならないと指摘する。
「中国共産党は長らく中立的な台湾人を取り込もうとしてきた」。台湾のNGO団体主催の講演会で、台北大学犯罪学研究所の沈伯洋副教授はこう語った。台湾有事が発生した際、中共に勝つためには軍事力だけではなく、抵抗する「強靭性」を示さなければならないと指摘した。
その背景にあるのが、著しく複雑化する現代戦争の様相だ。伝統的な陸海空軍による作戦に加え、認知戦や心理戦、統一戦線工作、貿易戦、サイバー戦などを融合させた「オールドメイン戦」が繰り広げられる。戦場は前線から銃後に果てしなく拡大し、個々人の内心にまで及んでいる。
中国共産党の手口を認識できなければ、世論戦や心理戦の犠牲となり、中共に取り込まれる恐れがある。沈伯洋氏によると、台湾の地方自治体の首長が中国訪問後に親中的な言論を展開するのは、中共の認知戦の成功を物語っている。
「中共が言う『交流』は間違いなく統一戦線工作だ。こうした手段を通して、台湾内部の世論を変えようとしている」
沈伯洋氏はさらに、「人々の文化、土地、国家に対する認識が高まれば高まるほど、自国を守りたいという意識が高まる」とし、「台湾人は政治的立場に関係なく、台湾を守ることについて一致した意見を持つべきだ」と訴えた。
7月初旬に台湾訪問した岩崎茂元統合幕僚長も同様の観点を示した。「戦争は軍人だけが行うものではない」とし、「戦闘を指揮する者が固い決意を抱き、国民が軍隊を支持する強い意志を持つ」ことが重要だと述べた。
対策はあるのだろうか。沈伯洋氏は、中国共産党が仕掛けるオールドメイン戦はさまざまなセクターに影響を及ぼすため、各セクターにいる民間人が相応の役割を果たすことが大切だと語った。
さらに、中国共産党代理人法案を可決させ、台湾にいる現地の協力者を摘発することで、中国共産党の工作を断つことができると強調した。
代理人法案は中国共産党による選挙介入を防止するためのもので、2019年に提出されたが、4年あまり塩漬けとなっていた。来年に総統選と立法委員(国会議員に相当)選を控えるなか、成立を求める声が再び高まっている。
中国共産党の影響力工作は日本にも及んでいる。石橋林太郎衆院議員は取材に対し、日本も中共の認知戦の標的になっているとの認識を持つべきだと警鐘を鳴らした。
「来年1月に台湾総統戦があり、中国の台湾に対する工作は激化するだろう。しかし懸念すべきは、日本国内においても、台湾総統選に向けての宣伝工作が行われていることだ」
石橋氏は、今後は偽情報(ディスインフォメーション)に対する政府対応が重要になるとし、偽情報に対する訂正の広報を迅速に行えるよう体制を整えていくことが急務だと語った。
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