もしあなたの隣人が、ある日、突然理由も告げられず姿を消したら?
いま、中国・新疆ウイグル自治区では、そうした状況が報告されている。国連や人権団体の推計によれば、100万人以上、場合によっては200万人を超えるウイグル人が「再教育センター」に拘束されているとされ(国連人権高等弁務官事務所, 2022)、言語使用、宗教実践、文化活動が厳しく制限されている。
ウイグル人は再教育施設を経て、綿花、繊維、太陽光部品などの製造現場に配属され、自由意思に基づかない労働を強いられていると報告されている。米国は2022年6月、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)に基づき、新疆産製品の輸入を原則禁止とし、国際企業にサプライチェーンからの強制労働排除を求めている。

米国務省は2021年、新疆での中国政府の行為を「ジェノサイド」と認定。英国やカナダの議会も同様の決議を採択した。一方、国連人権高等弁務官事務所は2022年の報告書で「重大な人権侵害」を指摘したが、「ジェノサイド」とは明言していない。中国政府はこれらを「内政干渉」と否定している。
中国・新疆ウイグル自治区における人権状況について、大紀元は日本ウイグル協会 副会長の田中サウト氏に取材し、現地での大規模な拘束、言語・宗教の制限、家庭への介入、児童の孤立などの実態を聞いた。
ウイグル弾圧の理由
2016年、陳全国(Chen Quanguo)が新疆ウイグル自治区の共産党委員会書記に就任した。陳はチベット自治区で監視網の強化や宗教活動の制限など強硬な治安政策を主導した経歴を持ち、新疆でも同様の統治手法を導入した。
田中氏によれば、ウイグル人に対する強硬な政策は2017年頃から急激に強化され、現在では日常生活の全域においてその統制が行き届いているという。
「中共政府の統制の口実として、3つの勢力、過激主義とか、宗教過激派とか、分離主義者などのテロリストを取締り、除去の必要性をあげ「再教育」と称する大規模な拘束を実施したが、その対象は過激派に限らず、知識人や海外渡航歴のある者まで広範に及んでいる」と田中氏は述べた。

ウイグル人の収容者数は公表されていないが、国連や人権団体の推計によれば、100万〜200万人以上とされている。
なぜウイグルの人々はこれほどの抑圧を受けることになったのだろうか。
その理由として田中氏は「ウイグル人を漢民族へ同化させることで、長期的支配を確実にしようとしており、同時に新疆ウイグル地区が石油・石炭・天然ガスなど豊富な資源を持ち、一帯一路構想でも重要な地理的位置を占めていることから、ウイグル人に対する弾圧政策を取っている」と指摘した。
中国共産党(中共)は歴史的に、ウイグル、チベット、モンゴルなどの地域で漢民族の移住を促進し、同化政策を進めてきた。
2000年に開始された西部大開発政策のもと、当時の江沢民政権は新疆を含む西部地域への投資を拡大し、漢民族の移住を促進した。これにより、漢民族人口は徐々に増加し、ウイグル人の割合が相対的に低下した。
田中氏は「中国人人口が増えるにつれて、中国の政策もだんだん厳しくなり、現在はもうジェノサイドに至っている」と深刻さを訴えている。
民族意識の破壊
2000年以降、ウイグル語による授業が縮小され、現在は多くの学校で標準中国語主体の「バイリンガル教育」が実施されている。一部の地域ではウイグル語教育がほぼ行われていないと報告されている。
「新疆ウイグル自治区などの自治区に対して、中国の憲法は自分の言語で教育を行う権利を認めているにもかかわらず、現在、学校においては、ウイグル語も教えなくなっている」

田中氏は多くの若年層が自らの母語を習得する機会を失い、民族としての文化的継承が断絶されつつあると訴えている。
2015年頃からは、「親戚制度」と呼ばれる仕組みのもと、漢民族の地方幹部らがウイグル人家庭に滞在し、日常生活を監視する措置が導入された。
田中氏によると、この派遣されてきた「親戚」の報告によって、その家の者が収容される事例も少なくない。父親が収容所に入れられた後、残された母親や娘が親戚によって暴行、性的暴行を受けるケースもある。
2015年頃から、「親戚制度」と呼ばれる仕組みが導入された。この制度は、漢民族の監視役がウイグル人家庭に派遣され、日常生活を監視するものだ。ここでいう「親戚」とは、本当の親戚ではなく、監視のために派遣される人物を指す。
田中氏によれば、この「親戚」による報告がきっかけで、その家の住人が収容される事例も少なくない。また、父親が収容所に入れられた後、残された母親や娘が「親戚」によって暴行や性的暴行を受けるケースもある。
これに加え、防犯カメラの設置や携帯電話の監視などにより、住民の私的空間は大きく制限されているという。

親が拘束された家庭では、子供たちが国家運営の寄宿学校に送られ、標準中国語中心の教育を受けさせられる。田中氏は、こうした社会的に孤立した未成年者が国家による強制的な同化政策に組み込まれていると指摘する。人権団体によると、こうした子供たちの一部が行方不明となったとの報告もあるが、詳細な規模や状況は不明である。
臓器強制摘出の疑惑
一部で「臓器狩り」の疑惑が浮上している。イーサン・ガットマン氏は、ウイグル人が臓器移植のドナーとなっている可能性を指摘し、「中国法廷」(ロンドン)は「強制的な臓器摘出が行われている」と結論付けた。ただし、これらの主張は独立した国際機関による検証が十分に進んでおらず、議論が続いている。中共政権は「臓器移植は法律に基づいて行われており、強制摘出は存在しない」と否定している。

ガットマン氏は、2017年以降、毎年約2万6千人のウイグル人が収容施設で死亡し、臓器移植のドナーとなっている可能性を推計しているが、この数値は検証が不十分で議論の対象となっている。
田中氏は、街中に監視カメラが設置されているにもかかわらず、失踪者に関するシステムが機能していないと疑問視している。
中国外務省や国営メディアは、アメリカや欧州の非難に対し、「中国を貶めるための嘘、反中国政治勢力の陰謀」と主張している。一方で、中共政権は独立した国際機関による臓器移植現場への立ち入り調査をほとんど認めておらず、透明性の欠如が国際的に問題視されている。
日本の対応と課題
未だ続く人権問題に対し、国際社会からの非難は厳しい。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2022年、新疆での強制収容、強制労働、文化的抑圧などの政策が「人道に対する罪」に該当する可能性があると報告した。米国は「ジェノサイド」と認定し、中国当局者への制裁や新疆産の綿製品・トマトなどの輸入を禁止。欧州諸国も同様の対応を進めており、企業に対しウイグル人強制労働が関与した製品の排除を求める動きが広がっている。
中国はこれらを「内政干渉」として反発。世界のサプライチェーンから新疆由来の原材料や製品を除外する措置が進む中、国際企業は対応を強めている。一方、日本は新疆の人権状況に「深刻な懸念」を表明しつつ、経済関係や対中外交を考慮し、制裁には慎重な姿勢を示している。
田中氏は「日本は民主主義国として、人権侵害への明確な姿勢を示すべき」と述べ、国際社会の一員としての対応を訴えている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。