先月29日夜、中国・重慶市の街頭で「打倒共産党」などの巨大スローガンがビル壁面に投影され、わずか50分間の出来事が世界に衝撃を与えた。
監視カメラが張り巡らされた都市のど真ん中での大胆な行動は、2022年の「四通橋事件」を彷彿とさせる。警察がホテルの機材を突き止めた時には、実行者はすでに国外へ逃れていたという。
四通橋事件とは、2022年10月13日に北京市内の陸橋である「四通橋」の上に、彭立発さんが「独裁者は要らぬ、選挙権が欲しい。奴隷になるのは嫌だ 、公民でありたい」などと書かれた横断幕を掲げた事件のことだ。
投影を仕掛けたのは戚洪(せき・こう、43歳)さんで、彼は警察宛てに直筆の手紙を残し、「共産党の罪悪は数えきれない。やむを得ないなら銃口を一寸だけ上に」と訴えた。「銃口を一寸だけ上に(槍口抬高一寸)」とは、相手に対する殺生や厳罰を避け、少し情けをかけるという意味の慣用句である。
事件から1週間後、戚さんは台湾メディアの取材に応じ、現在はイギリスに滞在していると明かした。「中国では息が詰まり、生きる希望を失っていた。戻ることはない」と述べ、四通橋の勇士・彭立発さんに触発されたことを語った。
戚さんは市販の投影機材を遠隔操作して実行し、「重要なのは決心だ。自分は英雄ではなく、ただ声を上げたかった」と説明した。妻子とともに渡英したが、中国に残った友人2人はすでに拘束されており、「そのことが最も心配だ」と語った。事件後、戚さん自身も急激にやせ、妻の体調も悪化しているという。
それでも彼は、「たとえ小さな火種でも、いつか必ず燃え広がる」と信じ、新天地での再出発を誓った。この投影行為は、中国国内の言論統制や監視体制への象徴的な挑戦として、国際社会からも注目を集めた。

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